成長戦略が揺らぐ帝人「まだ夢を語れない」わけ 背水の陣を敷く主力事業の現状を社長に直撃

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――早い段階でリストラの可能性を示すことで、動揺する人も少なくなさそうです。

たしかに、字面だけ読めば、「結果が出なければ辞めさせられる」というふうに伝わるし、多くの従業員がそう感じたと思う。けれども、どのような事業であれ、ずっと計画どおりにいっていなければ改善が必要なのは当然だ。そして、改善の努力をしても実らなければ、何らかの決断をしなければいけない。

物事には頑張らせてもらえる期間があり、結果を出さなければいけない時期があることは、私自身も認識しなければいけない。従業員にもそれをわかってもらう必要がある。ここまで来たら、社長が覚悟を決めていることを、従業員にも知ってほしかった。

――2017年にアメリカの大手企業を840億円で買収して複合成形材料に参入した狙いは、自動車メーカーと直接取引するティアワンになることで直接ニーズをくみ取り、さまざまなソリューションの提案や、素材開発につなげることでした。もし撤退すれば、描いてきた成長への絵が崩れませんか。

もちろん撤退となれば痛手ではあるし、ここまで積み上げてきたものを大きく毀損することにはなる。ただ、これまでに学べたこともたくさんある。すでに吸い上げたもので、発展する可能性、計画があるところは今後も伸ばしていけばいい。

もしも事業撤退となったときに全部を更地にするということであれば厳しいが、これまで自動車メーカーに近づくためにテクニカルセンターをつくったり、お付き合いする自動車メーカーの数を増やしたり、さまざまなことをしてきた。仮に複合成形材料の事業をやめるにしても、これまでのことを無にするようなやり方はしない。

いま夢を語っても絵空事

――複合成形材料は撤退の可能性があり、ヘルスケアは特許切れしたフェブリクの後に、有力な新薬のパイプラインがない状況です。成長への種がないように見えます。

それは当然言われること。ただ、今後については、発表を先送りしている(来年2月頃に出す見通しの)新中期経営計画の中でお話ししたい。というのも厳しい業績が続いている中で、今後の成長、夢の語り方も、工夫しなければいけないと思っているので。

まずは、約束したことがきちんとできる会社であることをもう一度、株主、投資家の皆様にご理解いただけるようにしたい。かつ、今年度中に、ヘルスケアの分野などでいくつか、次にやることの兆しをお見せしたい。

そのうえで今後についてお話しする順序でないと、今の状態で私が何か夢を語っても、絵空事になる。収益改善の施策を進めて、私を信頼に足る経営者だと思っていただくのが最初だ。まだその第一段階に合格していないので、そこをしっかりとクリアしていきたい。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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