成長戦略が揺らぐ帝人「まだ夢を語れない」わけ 背水の陣を敷く主力事業の現状を社長に直撃
――複合成形材料は、収益改善によって営業利益で130億円の効果を出す目標を掲げています。事業を売却せずに継続するためには、最低でもいくらくらいの改善が必要ですか。
損益の責任は、私や事業責任者にある。私が従業員と約束したのは、従業員が収益改善のために自分たちでつくった100以上の施策が約束どおり進んでいっているか、その成果がどうであるかを見るということ。施策が進んでいれば、約束事としては「できた」という評価、判断でいいと思っている。
損益は為替、原油価格、自動車の生産台数に大きく影響される。もし、そうした外部環境が非常に良くて、それで数字が良くなっても、施策が全然進んでいなかったら、その場合には私は「できている」とはみなさない。
逆に向かい風が強くて数字が良くなくても、必ずしもダメということでもない。だからと言って、130億円の改善効果を出すと言っているのが20億円に留まって、それでもよしとするということはないが、1つひとつやろうとしていることがどうであったのか、数字ではなく中身をちゃんと見る。
事業売却にあえて触れた理由
――複合成形材料の事業売却の可能性についてですが、普通は、具体的に検討に入る時期までは明かさないのがセオリーだと思います。
そう。普通ならば言わないだろう。方針を公表したのは、社内向けの理由が大きかった。
当社が苦しんでいる原因は、アラミド事業で2022年12月に工場火災があり生産性や量が落ちたこと、ヘルスケアで主力のフェブリク(痛風等治療薬)が2022年度に特許切れになったこと、そして複合成形材料の収益性が上がっていないことの3つで、とても明確だ。
ただ、私が問題視しているのはそこだけではない。いろいろな事業を一覧表にして傾向を見たときに、計画から下振れていないものがほとんどなかった。会社全体で実行力を失っているか、マネジメントに失望した従業員のモチベーションが低いからか。理由はわからないが、こうした傾向にあるのは大きな危機だ。
従業員には説明会を開き、私の考えをシェアした。そこで、複合成形材料については改善の施策を1年分のコミットメントにして、一緒に頑張ろうと話した。ただし、うまくいかなかったときの覚悟も市場に示さなければいけない、ということも伝えた。
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