搾取に怒り「ハリウッドスト」泥沼化で起きる事態 Netflixの台頭、AI進化で組合員の生活は困窮へ

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このストライキで苦しむ人たちは、世界中にいる。オーストラリアやカナダのクルーやケータリング会社、運転手なども、かかわっていた作品が突然撮影中止となり、収入がとだえてしまった。先が見えない中では家や車を買う計画もいったん置くだろうし、外食や旅行も控えるだろう。一刻も早く交渉を再開し、新たな契約を結ぶことがみんなのためだ。

だが、残念なことに、そうなる可能性は低い。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と、スタジオ、テレビ局、配信会社を代表する全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)の見解が、あまりにかけ離れているからである。

俳優組合と製作者協会の労働条件についての契約は定期的に行われる。今回、いつになく揉めることになったのは、近年、Netflix、アマゾン、アップルなど、ハリウッド以外のところから参入してきて、違う仕事のやり方を始めたからだ。

ディズニーはDisney+、ワーナーはMax(旧HBO Max)、パラマウントはParamount+など、メジャースタジオも配信に参入し、その“新しい”やり方は、主流になってしまった。そのせいで、俳優たちの収入が影響を受けたのである。

87%の組合員が年収2万6000ドル未満

一番わかりやすいのは、レジデュアルと呼ばれる再使用料。これは、1960年のストライキで、出演した映画がテレビ放映される場合に支払われるべきだとして、俳優と脚本家が勝ち取った権利だ(俳優組合と脚本組合が同時にストをしたのは、歴史上、この時と今回だけである)。

後にビデオやDVDが販売される時代になると、そこでもレジデュアルが発生するようルールが変更された。仕事がない時も過去の仕事からお金が入ってくるおかげで、俳優や脚本家は生活していけるのだ。

しかし、Netflixをはじめとする配信の作品は、ここに当てはまらない。彼らは最初に決めた一定額のレジデュアルを払うだけで、作品が何度視聴されても額を増やすことはない。そして今や、配信が作る作品数は、通常のテレビよりずっと多い。俳優組合の健康保険に入るには、演技の仕事で年収2万6000ドルを稼がなければいけないが、今では87%の組合員がこの資格を満たせない状況になった。

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