韓国の朴槿恵大統領がダメなこれだけの理由 大統領就任だけが目標だった国家元首の哀れ

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立場が変われば、韓国国民の誰もが、李さんのようになっていたかもしれない。ある韓国人は、「数百人単位で犠牲者が出た事故では、自分に関係する人の誰かが何らかの形で関係している人が多い。自分も友人の友人の子どもが犠牲者だった。それほどの大事故だったのだ」と打ち明ける。

韓国に生活したことのある日本人なら、韓国人に対してほぼ「情が深い」という印象を持つ。だが、今の韓国の大統領は、遺族の気持ちを受け入れ、寄り添うような人物ではないようだ。「大統領になるのが最終目的だった大統領」。そんな指摘も出てくる中、国民の痛みがわからない政治家と言われても仕方がないように思える。

このような韓国社会の実状を紹介した『TeSORO』の編集長で、『ソウル新聞』東京支局の黄性淇(ファン・ソンギ)支局長は、(上述してきたような)韓国政治・社会の右傾化と、「ネトウヨ」「ヘイトスピーチ」などに代表される日本のそれと決定的に違うことが1つあると指摘する。

1998年に東京特派員として赴任して以降、日本での取材・生活経験が長い黄支局長は、日本の実状をもよく知るジャーナリストの一人だ。そんな彼は、大韓民国建国以来、あるいは日本の殖民地から解放されて以降、現在も続く「イデオロギー対立」こそ、韓国内の混乱を生み出しているのだと紹介する。

「民族が南北に分断され、その分断が親日・反日、親北朝鮮・反北朝鮮の対立構造を生みだし、それが根深く現在まで続いている。朝鮮半島の南側では資本主義国となったが、その国で生きていくためには“反共”というイデオロギーが先行した。右寄りのイデオロギーで物事を語らないと“親北”と見なされ、韓国社会から除外されてしまうためだ」

南北統一をできていないため右傾化しやすい

だからこそ、韓国は容易に右傾化しやすいのだ、と黄支局長は言う。大韓民国建国の1948年前後から、独立問題、朝鮮戦争という同族同士の戦争、軍事政権の樹立、労使対立、民主化……。韓国ではどの国でも発生しうる問題が、それほど長くはない期間に一度に噴出した。経済発展の過程で少なからず起きる問題をすべて韓国は経験してきたと言っても過言ではない。

1987年にようやく民主化を達成したが、それから28年。それでも右傾化をはじめ政治・社会の対立が生じてしまうのは、「南北の理念の対立が解決できていないから」(黄支局長)。すなわち、まだ南北統一がなされていないことが原因ということだ。

しかも、「国家保安法」の存在も韓国では重い。1948年に制定された同法、治安維持立法の一つであり、反共イデオロギーを実現するための装置とされてきた。前述した統合民主党の解散、シン・ウンミさんの事件はともにこの法律が関係している。だが、北朝鮮の脅威がすでに当時ほどの脅威ではなくなり、韓国がすでに民主化された今、表現の自由など基本的人権を侵害するものだとして反対も根強い法律が、韓国には根深く存在する。

そのような状況においてこそ、トップの大統領が様々な階層や意見を調整し、収斂させていく能力が必要とされる。民主化・民主主義が進めば進むほど、そのような調整能力を持つ者が韓国のような国家のトップに立って行うべきだが、「不通」の大統領にそれを求めることができるだろうか。あるいは、南北対立という朝鮮半島の歴史という重みの前には、どんな韓国人でも解決に対しては無力なのだろうか。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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