韓国の朴槿恵大統領がダメなこれだけの理由 大統領就任だけが目標だった国家元首の哀れ

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2014年11月、日本の植民地時代から解放された直後の1946年に作られた「反共」を標榜する青年団体「西北青年団」が再結成された。

朝鮮戦争が勃発した1950年前にはほぼ消滅したが、それまで「アカ狩り」を叫びながら暴行や暗殺、事件扇動などを実行したテロ集団とも言える団体が、21世紀になって突然復活した。かつてのような暴力・テロ行為は行わないまでも、「北朝鮮に追随する左派を根絶やしにする」というスローガンを、今でも掲げている。

2014年12月、北朝鮮への訪問経験がある韓国系米国人のシン・ウンミさんが釜山での講演会の進行中、シンさんの言動はあまりにも北朝鮮寄りだと考えた高校生によって手製爆弾を投げ込まれた。

シンさんは訪朝経験を元にネットメディアに『米国同胞おばさん、北朝鮮に行く』を執筆、後に書籍化され多くの読者を獲得した人物だ。手製爆弾では、シンさんには被害がなかったものの、講演会の主催スタッフが大きなやけどを負った。シンさんの著書は韓国政府が「優良文学図書」に指定したほどのものだったが、この事件以降、「親北朝鮮だ」との彼女に対する批判が強まると指定を解除。さらに「北朝鮮を利するような活動」と判断され、司法当局により国外退去処分にされた。表現の自由は、やはり韓国にはないらしい。

ネットの言論も右傾化

ネット上でも右傾化が進んでいる。2010年にオープンしたコミュニティサイト「日刊ベスト貯蔵所」は、今では韓国語で「イルベ」と呼ばれるほど人口に膾炙した存在になった。日本で言えば、「2ちゃんねる」のような存在だろうか。

ここでは、「(韓国の)民主化運動や特定地域をおとしめたり、全斗煥の軍事政権に反対した(1980年の)5・18光州民主化運動を否定する。あらゆる社会的な摩擦を起こしている」(ソウル新聞の李成源記者)。イルベの登場は、若い世代の極右化を意味すると認識され、今では大学生の間で保守系団体が数多く登場しているようだ。

このイルベに触発された若者が、さまざまな奇妙な行動を起こしている。上述したフェリー事故の犠牲者遺族に対しても、彼らの攻撃は容赦ない。ネット上では、20歳の青年がフェリー事故で犠牲になった高校生たちを「死んでよかったね」といった意味で揶揄する行動を写真に撮ってアップロードし、強い批判を浴びた。

2014年9月には、フェリー事故遺族がソウル市内で真相究明のためにハンストを行っている目の前で、イルベユーザーが「暴食闘争」と称しピザを食べるという、まさに子どもでもやらないような行為を働いた。

特にフェリー事故の一件では、事故処理を行う政府と被害者遺族との溝がますます広がっている。決着にメドを付けたい政府の処理のやり方を、遺族たちは「真相が何なのか、まったくわからない」と嘆く。同時に、フェリー事故を起こした船長など乗員に対する裁判が進行中。すでに4月末の控訴審で、船長には殺人罪が適用され無期懲役の判決が下された。だが、なぜあんな事故が起きたのか、遺族たちは納得できていないままだ。

そんな遺族に対し、「賠償金目当てだ」「(ある特定地域の)出身者が多いからゴネている」と、前述したイルベをはじめ保守的な層から批判が繰り返されている。

ある在日コリアンは韓国の友人が「何億ウォンもの賠償金目当てで、遺族はごねている」と強弁し、とても呆れたと打ち明ける。さらに「犠牲者は貧乏なやつらだからフェリーで行ったのだ。自業自得だ」という声も少なくない。カネ持ちの子どもたちが通う学校なら、修学旅行も飛行機で行くはず、というのだ。だが、「あのフェリー路線はどこの高校生も修学旅行で使う路線。貧富の差などなく、修学旅行の定番路線なのに…」(ソウル市内の高校教員)。

「自分の子どもが死んだというのに、どうしておとなしくしていられましょうか。事故原因などの政府の説明のなかで納得いくものはひとつもありません。政府がきちんと動いてくれれば、私たちだってこんなことを続ける必要はありません」(事故犠牲者の父である李南錫さん、『TeSORO』2015年1月号)。

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