安倍演説は中国に「和解への期待」を与えた 国営通信社の反応を真に受けてはいけない
小泉純一郎首相の靖国神社参拝をめぐって両国の関係が悪化していた10年前、2005年のバンドン会議を振り返ってみよう。
当時、中日首脳会談が開かれるかどうかは、小泉首相による会議でのスピーチが終わるまで決まらなかった。「植民地支配と侵略」に対する「痛切な反省とお詫び」という小泉首相のスピーチがあったことにより、中日首脳会談はようやく実現した。
今回のバンドン会議のケースでは、安倍首相はスピーチでお詫びの言葉を入れることはないと中国のメディアは事前に予測していた。また22日に100人以上の国会議員がそろって靖国神社を参拝したニュースは中国で大きく報じられており、中国のメディアは、中日首脳会談はないとの前提でバンドン会議を報道した。
中国政府は外交に自信
しかし、バンドン会議期間中に首脳会談が実現した。しかも2014年11月に北京APECで行った会談より5分長く、30分に及んだ。テレビなどを通じて習近平国家主席に肉声は伝わってこなかったが、中国のメディアは、歴史問題などに関する中国の考え方を安倍首相に伝え、さらにアジアインフラ投資銀行(AIIB)についての説明も行ったと報じた。
「2月の中日韓三国外相会談の内容から見て、夏あたりでは中日首脳会談があるだろうと思ったが、さすがにバンドンで会えるとは思わなかった」と日本を専門とする記者は語っていた。それほど、この首脳会談は意外感のあるものだった。
一方で、その前兆を感じさせる証言もあった。「この頃は、多くの中国政府関係者と会えるようになった。風向きの変化を感じている」(北京に駐在する日本の政府機関の所長)。
大学で日本を研究する学者は「習近平国家主席はいま、自信を持っている。彼が日本との関係を改善しようと思えば、すぐにでもできる。今は思う通りの外交ができる」と言う。
確かに、AIIB設立は大きな節目だった。この大事業の立ち上げにこぎつけたことで、中国政府は今、相当の自信を持っている。日本との領土問題、歴史問題はすぐに解決できることではないが、今の時点で、そこに強くこだわる必要は中国にはないのだ。
バンドンに続くワシントンでの安倍首相のスピーチも、中国では大いに注目された。中国時間では明け方に行われているにもかかわらず、ほぼそのまま中国のインターネットにも全文が掲載され、動画も出回り、多くの人がその模様を見た。
その反応について、日本ではやや偏った報じ方をされているように思う。新華通信社、中国新聞通信社などの国営通信社が「お詫び」がないところにクローズアップした記事に注目。さらに外交部のスポークスマンが不快感を示したとの発言をも大きく報じられた。
しかし、それは中国の反応を代表したものではない。安倍首相のスピーチをきちんと読めば、日本と米国の和解についてのスピーチであることはわかる。米国のとの戦争は、中国流にいえば「帝国主義戦争」であり、戦後には共同慰霊祭を行うなど、両国には和解の基礎がある。それに対し、村山談話における「植民地支配と侵略戦争」、すなわち日本とアジア諸国との間の戦争は、米国との戦争とは性格を異にしている。
アジアにおける和解が現時点では難しいことは当然であり、そのことを米国の議会で話すことが相応しいわけでもない。国営通信社などによる、その程度の日本批判は、今までの批判と比べるとかなり低調にみえる。
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