米国株高の中で見逃される「重要な事象」とは何か 警戒すべきなのは「金利引き上げ」だけではない

拡大
縮小

実際、市場がどの程度ジャブジャブな状態(過剰な資金が滞留している)なのかを正確に把握するのは難しい。ここでは代表的な指標である「マネーストック」を使ってこれを検証してみたい。

FRBによると、ベンチマークとされるM2(現金と預金の合計であるM1に、小規模の定期預金やMMFなどを加えたもの)は、4月時点で20兆6731億ドルとなっている。M2自体はFRBの利上げや量的引き締めの影響を受け、昨年4月から徐々に減少傾向が強まっており、昨年12月以降は前年比でもマイナスの状態が続いている。やはり、資金は市場から着実に吸い上げられているのである。

秋にかけて余剰資金減少の影響が出てくる可能性も

だが、コロナ禍の影響が出始めた2020年3月時点と比べた場合では、まだ当時の水準を30%近く上回る水準にある。一般にマネーの伸びは、GDPの伸びをやや上回る程度のペースとなるのが普通だから、資金供給過剰の状態が続いているということだ。こうした潤沢な資金が背景にあるのなら、投機的な買いの勢いが依然強く相場をしっかりと押し上げているのも当然だと言える。

問題は、こうしたジャブジャブの状態が、いつまで続くのかだ。FRBも政策金利に関しては方針もフラフラとしているが、量的引き締め(QT)に関しては今のところブレてはいない。6月のFOMC声明でも、現在のペースでの縮小を続けることを明確に記している。

つまり、FRBは市場からの資金吸収を継続することで、M2も減少、いつしか余剰資金は市場から消え去るのは不可避だということだ。問題は、余剰資金が消えるのがいつごろになるかという点だ。ウォール街では、早ければ今後秋にかけて、余剰資金減少の影響が市場に出てくるとの見方もある。

FRBの方針に変更がない限り、市場は遅かれ早かれ資金減少や資金不足という問題に、直面することになる。追加利上げの可能性や利下げ転換のタイミングに一喜一憂するのもよいが、一方で市場から着実に流出している資金の流れにも、しっかりと目を光らせておく必要がある。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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