ついに薬局で買える「緊急避妊薬」どうなる? 性交渉後72時間以内の服用で「妊娠を回避」

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私は、アフターピルは、街のドラッグストアで販売するのが理想であり、費用についてはイギリスのように無料が望ましいと考えている。また、旅行先で必要になることなどに備えて、事前に購入しておけるようにするべきだ。

普及を阻害するのは「人々の偏見」

さて、先に触れたように「アフターピルが普及すると、女性が淫らになる」という意見を堂々と述べる人がいるのが日本の実情だ。あろうことか、医師だったり、“有識者”とされる人たちの話だから、あきれてしまう。

アフターピルをもらいに行ったら、医師に根掘り葉掘り質問されて非常に不快だった、という話を少なからず耳にする。「お前は売春婦なのか」と医師に罵倒されて泣きながら帰り、改めて私のところを受診した人もいた。

「女性が淫らになる」というが、男性はどうなのか? 性交渉は1人ではできないはずだが、なぜ女性だけが槍玉に挙げられ、傷つかなくてはならないのか――。日本社会、そして日本の医療界の暗部に根強く残る性差別が、女性のみならず国民全体を不幸にしている。

日本に限らずさまざまな国で、アフターピルの導入や市販化(OTC化)には、それなりに時間がかかってきた。アフターピルはアメリカ合衆国で、レイプ被害者の望まない妊娠を防ぐために、1960年代に開発された。当初は女性ホルモンのひとつであるエストロゲン(卵胞ホルモン)を高用量で用いる治療から始まった。その後、エストロゲンの少ないホルモン剤に変わった。1999年にアフターピルの 「Plan B」 が発売されてから、2009年に薬局で買えるOTC薬に指定されるまで、アメリカでさえ10年かかっている。今では、子宮内に挿入する小さな器具で妊娠を防ぐようになっている。

日本でアフターピルが処方薬として発売されたのは、ずっと遅く、ようやく2011年のこと。その直後からOTC化に向けた議論はなされてきたが、厚生労働省の検討会では産婦人科医師が慎重論を述べ、パブコメでは推進論が多数を占めるねじれた状況が続き、進展が見られない状況だった。

アフターピルのOTC化は、男尊女卑のブラックな社会と決別し、新しい世の中に向かおうという人々の決意表明に等しい。新しい世代が主導する新しい社会のメルクマールにもなると私は考えている。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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