いちごオフィスはなぜ投資ファンドに狙われたか スターアジアが突いた多額の「リート運用報酬」

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2019年にスターアジアは、さくら総合リート投資法人に投資主提案し、その後、傘下のスターアジア不動産投資法人と合併させている。「役員を送り込まれたら、さくら総合リートのように、いちごオフィスもスターアジア傘下のリートと合併させられるのではないか」と、いちご幹部は懸念を示す。

一方で、スターアジアの杉原氏は、「スターアジア不動産の直近の投資口価格は鈍く、いちごオフィスの合併先としてベストではない。もし合併を要求するならば、運用会社の変更などを提案している」と話した。

いちごオフィスを存続させるため、いちご側は投資口取得を水面下で進めた。2023年2月下旬以降、いちごトラストは少しずついちごオフィスの投資口を取得し、5月末時点では保有比率が3割を超えた。

スターアジア側が求めた規約変更をするには特別決議が必要であり、そのためには議決権の3分の2以上の賛成が求められる。いちご側が3分の1超の議決権を保有している以上、この時点でスターアジア側の提案が通る可能性は低かった。

議決権行使助言機関の意見表明もスターアジア側にとって逆風となった。ISSとグラスルイスはともに、「被合併時成果報酬」と「被買収時成果報酬」の廃止、ならびに、杉原氏の役員への選任に反対を示した。

第2ラウンドが始まるのか

とはいえ、臨時投資主総会では、複数の投資主からいちご側に対して厳しい意見が出た。ある投資主は「DPUが増えると運用報酬が二次関数的に増えてしまう。またDPUが減ったとしても、増資でNOIを増やせば運用報酬も拡大するのはおかしい」と報酬体系を問題視した。また別の投資主は「いちご側からは運用報酬が減ると説明されたのに実態は異なった。説明責任を果たせていない」と不満を述べた。

総会を終えて今後はどうなるのか。いちごトラストによる取得の影響もあり、いちごオフィスリートの投資口価格は2023年2月頃から上昇し、6月26日の終値は8万8400円だった。投資口を売却することでスターアジア側は一定程度の利益を確保できる。

一方で、「もともと、いちごオフィスはスポンサーが議決権を多く保有しており、機関投資家の保有比率も高い。なのに今回、狙われた。用意周到に提案してきたので、ほかに何か考えがあるのではないかという怖さがある」と、いちご投資顧問の岩井氏は語る。

このまま投資口を売却して手仕舞いか、はたまた新たな提案で第2ラウンドが始まるのか。スターアジアの次の一手に、いちごオフィスのステークホルダーは気もそぞろだ。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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