いちごオフィスはなぜ投資ファンドに狙われたか スターアジアが突いた多額の「リート運用報酬」

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実際、直近2022年のいちごオフィスのNAV倍率(Net Asset Value倍率、リートの純資産に対して投資口価格がどれくらい割安かを示す)は1倍を下回っている。投資口価格が上がっていない以上、増資などによる外部成長も難しい。「投資口価格が割安である原因を分析したところ、異常に高額な運用報酬が問題だとわかった」と、杉原氏は指摘する。

通常、リートは資産規模に連動する運用報酬体系を採用しており、一定の料率を総資産額に乗算したものが運用報酬額となる。一方、いちごオフィスは、2020年11月から「完全成果報酬」をうたった独自の運用報酬体系を採用している。

いちごオフィスは資産規模と連動した運用報酬体系がない代わりに、DPU(一口当たり分配金)とNOI(純収益)に料率を乗算した「収益・分配金成果報酬」のほか、不動産の譲渡益15%に相当する「譲渡成果報酬」が設定されている。不動産賃貸の純収益や物件売却に伴う譲渡益を伸ばすことで、いちご側も多くの報酬を得られるというわけだ。

当初、いちごオフィスは運用報酬体系を変更することで報酬額が4%ほど下がると説明していた。ところが、実際には運用報酬額が増えており、投資主価値向上と相反するとスターアジア側は反発した。

「いちごも痛いところを突かれた」

いちごオフィスを運用するいちご投資顧問の岩井裕志・代表取締役は「リートの成長にコミットすべく、完全成果型の報酬体系を導入して報酬の対価を明確にした。中長期的に報酬が大きく変わらない水準を考えたつもりだが、実際は想定よりもDPUが12%ほど上昇したことで報酬額も11%ほど上振れた」と説明する。

いちごオフィスの投資主に向けて、スターアジア側は議案への賛同を呼びかけた(記者撮影)

スターアジアによる批判を受け、いちごトラストは運用報酬の引き下げを提案した。この改定案では、運用報酬の料率が1割ほど低下している。「資産運用会社が成果を追求できることなどを確認できたため、料率を引き下げた。利益成長が続けば、料率の引き下げについては今後も継続的に検討したい」(いちご投資顧問の岩井氏)

スターアジア側の議案(運用報酬の料率の3割超の引き下げを要求)ほどではないものの、いちご側も報酬引き下げに応じた形だ。リートに詳しいアナリストからは「スターアジアは大義名分のある提案をした。いちごも痛いところを突かれたと感じ、運用報酬の料率の引き下げに転じたのだろう」という声もあがる。

一方で、いちご側が譲歩しなかったのが「被合併時成果報酬」と「被買収時成果報酬」だ。スターアジア側は「実質的な買収防衛策として機能しうる報酬体系だ」(杉原氏)と主張し廃止を求めたが、いちご側は一部規約を変更しつつも堅持。あわせて、新たな役員の選任についても、いちご側で独自に候補者を選び、杉原氏らの役員選任を要求するスターアジアとは真っ向から対立した。

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