佐藤二朗「アヒージョを最近知った僕が思うこと」 人は一概に「○○な人」と色分けできないな、と思った話

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僕の知り合いの舞台演出家に、とんでもなく、本当にとんでもなく、財布や携帯を置き忘れる人がいる。あらゆるところに置き忘れる。自宅はもちろん、稽古場、居酒屋、タクシーの車内、電車の座席、果てはバス停に置き忘れる。あまりに頻繁に置き忘れるので、何かのギャグかと思ったが、どうやらギャグではないらしい。本人は至って真剣に悩み、なんとか改善したいと思っている。で、その矢先にまたどこかに置き忘れる。「もう泣きたいよ」とは本人の弁。

ところがこの人、こと役者を演出すること、芝居を観る眼、は、ちょっと異常なくらい発達している。もう、ほとんど超人レベルだと僕は思っている。

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また、別の旧知の演出家は、繊細な神経も持ち合わせてるのに、こと「人に批判されること」に関しては、まるで気にせず、気にせずどころか、悦びに変えている節があり、こう書くと少し変態みたいだが、多分変態なのだろう。

批判を自身の力の源にしているというか、むしろ燃料にしている感じ。先日、このことに関してその人と話したが、「おそらく、批判を気にする神経が切れている。あるいはその神経そのものが無い」という結論(?)に至った。

かといって、その人が「図太い」かというと、そうでもない。他の人が見ないところを見て、他の人が気にも留めないようなことを気にして、他の人が考えもしないことを考え込む。

人は一概に「○○な人」と色分けはできない

つくづく、人は一概に「○○な人」と色分けはできないな、と思う。「繊細な人」といっても、あるところには凄く繊細で、あるところでは全くズボラだったりする。「物知りな人」と一概にいっても、あるところには凄く知識が深く、あるところでは全く物を知らないということもある。

わたた。自分が無知であることの言い訳みたいな結論になっちゃった。繰り返すが勿論、無知は恥ずべきことだ。改善するよう努めます。これホントに。ただまあ、色んな人がいるし、色んな人がいていいし、色んな人がいる方がなんつーか、愉しいよね、てな感じでどうかひとつ。さ、今夜の晩酌は、アヒージョにするかね。

(初出:AERA dot.2018/09/16)

佐藤 二朗 俳優

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さとう じろう / Jiro Sato

1969年生まれ、愛知県出身。俳優、脚本家、映画監督。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げ、全公演で作・出演。近年は『ひきこもり先生』『鎌倉殿の13人』(NHK)での演技が話題になり、『歴史探偵』(NHK)の所長、『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジテレビ)の主宰も務めるなどマルチな才能を発揮。原作・脚本・監督を務めた映画『はるヲうるひと』(2021)は海外の映画祭で最優秀脚本賞を、主演映画『さがす』(2022)は国内の映画祭で最優秀男優賞を受賞。23年8月に『リボルバーリリー』(行定勲監督)、24年春に主演作を含む映画3作の公開が控える。Twitterフォロワーは200万人超。

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