仕事と子育ての両立を容易にしている背景の3つ目は、日本と比べて母親の負担が格段に少ないことである。
フランス人女性は「母親としてこうしなければ」というプレッシャーから解放されているように見える。たとえば、フランスの赤ちゃんは、生後数週間で自分1人の部屋で眠るようになる。幼稚園ぐらいまでは川の字になって眠る、という日本人の常識が頭にこびりついていた私は、友人のマリー(仮名)宅で実際に目にしたときは驚いた。万が一の事故とか、突然死とか心配じゃないのだろうか。
マリーは「泣いたら聞こえるから。そうしたら部屋に行って、おむつを替えたり母乳を上げたりすればいいのよ」とあっさり。なるほど、そう言われてみればその通りだ。夜の間だけでも赤ちゃんから解放されれば、母親は気が楽だし、夫婦だけの時間も持つことができる。
マリーは母乳で育てていたが、「母乳」にこだわっている母親は少ないという。むしろ、「胸の形が悪くなるから」と、早めに母乳をやめる人が多いそうだ。離乳食も手作りにこだわらず、瓶詰めなどを利用する。スーパーの離乳食売り場は日本以上に充実していた。
幼稚園や学校からの指示や決まりは少ない
日本人は決まりを重視し、何事も「手抜きをしない」ことを美徳とする傾向がある。フランス人は手抜きができるところでは、手を抜いても構わないと考える。親の務めも合理的に果たそうとする。この合理主義は、幼稚園や小学校でも発揮されている。決まりが少ないので、「母親の仕事」が少ないのだ。
フランスの幼稚園では、入園準備がほとんどいらない。証明写真3枚と市販のスモックを用意するぐらいだった。日本の幼稚園では、昼食の際にテーブルに敷くランチョンマットやマットを入れる袋、お弁当を入れる袋、手提げ袋、衣服が汚れた場合の着替えを入れる袋などを手作りしなければならなかった。
制服はないので、子どもは私服を着て「手ぶら」で登園する。「ハンカチとティッシュを持ってくるように」という指示さえもない。日本の幼稚園だと、制服がなくても「胸にハンカチを安全ピンで留める」とか、「帽子をかぶらせる」とか、朝の支度がややこしい。わが家では、ハンカチだけは持たせたのだが、ティッシュは園に置いてあるものを使えば用が足りたようだ。朝、子どもにあれこれ持たせなくていいというのは、実に楽だ。
昼食は給食だったが、ランチョンマットなどは敷かなかった。子どもが衣服を汚した場合には、園で常備しているリサイクルの服に着替えさせてくれた。自前の着替えを園に預けたりしなくてよいのは助かった。
小学校でも「母親の仕事」は少ない。入学式、卒業式、運動会はなかったし、授業参観もなかった。保護者会は年2回程度。緊急連絡網もない。PTAの役員も大人数を選ぶ必要はなく、ボランティア精神旺盛な数人が引き受ければ事足りるものだった。
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