日本企業が疎い投融資先の思わぬ「人権リスク」 人権デュー・ディリジェンスを知っていますか
多くの金融機関では、大規模なインフラ整備や資源開発のプロジェクトなどにおいて、その周辺を含む自然環境や地域社会に対するリスクと影響を評価し、それを回避・緩和する対策をとる枠組みである赤道原則を採択しているが、このような取り組みも人権デュー・ディリジェンスの考え方に沿ったものといえよう。
一方で、このようなプロジェクトベースでの検討を超えて、投融資においてどこまで人権リスクに関する情報を収集し、深掘りするかは、日本企業の中で実務がいまだ確立しているとはいいがたい。投融資に当たり人権リスクに関する表明保証を求めるなどの動きは、人権デュー・ディリジェンスの法令化が進む欧州などにおいて先行していることから、ヨーロッパ企業の動向などにも留意しておく必要があるだろう。
取引停止は原則「最後の手段」
なお、人権デュー・ディリジェンスの結果、何らかの人権リスクが存在する場合、その人権リスクを理由とした取引停止が原則として「最後の手段」として考慮されるべきという点にも留意すべきであろう。
例えば取引先であるサプライヤーにおいて、過酷な労働環境で雇用者が労働者を働かせていたということが判明した場合、その契約を解除しても人権リスクは改善されるわけではなく、逆に取引を停止することによって、サプライヤーの経営状況が悪化して、労働者としてはさらに悪い環境に置かれてしまうかもしれない。
指導原則や人権デュー・ディリジェンスガイドラインでは、取引先などとの対話を通じて改善を求め、それでもなお改善しないような場合に、取引停止は最後の手段として検討されるべき、ということが指摘されている。
このような考え方は投融資の場合にも当てはまるとともに、とくに金融機関が行う金融サービスは社会インフラとしての側面もあり、すでに締結されている契約を終了する場合には慎重な配慮が必要であろう。
金融機関との関係で取引停止が問題となった事例もある。オーストラリアの金融機関の投融資先との関係では、その投融資先がカンボジアで農地収奪をしたうえで児童労働を行っているとNGOから指摘を受けて、当該金融機関が融資を終了したものの、その際、農地収奪の被害者に対する救済措置がなされていなかったということで批判を浴び、最終的に金融機関が被害者に対する一定の保証を行っている。
したがって、取引停止に当たり、そうした取引先の負の影響が解消されていないかどうかが国際的に問題となりうるという視点でも注意が必要である。
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