甲状腺がん裁判、「東電主張の被曝評価は過小だ」 原告弁護団長が語る、勝訴確信の科学的根拠

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東京地方裁判所に入廷行進する、311子ども甲状腺がん裁判の原告・弁護団および支援者(2022年11月9日、撮影:筆者)
福島第一原子力発電所事故による放射線被曝が原因で甲状腺がんを発症したとして、2011年3月の原発事故当時、福島県に在住していた若者7人が、東京電力ホールディングスを相手取って損害賠償を求める裁判を起こしている。
被告の東電は、国際機関による被曝線量評価などをよりどころにして、「原告らの被曝線量は、甲状腺等価線量で10ミリシーベルト以下と推定され、被曝により甲状腺がんが招来されたという関係は認められない」と主張。
これに対し原告側は、国際機関などによる被曝線量評価はあまりにも過小だとする専門家の意見書を提出し、裁判は重要な局面にさしかかっている。「311子ども甲状腺がん裁判」で原告弁護団長を務める井戸謙一弁護士に、原告の実情や裁判の行方について聞いた。


――「311子ども甲状腺がん裁判」が起こされたのは2022年1月27日です。福島原発事故から10年以上が経過する中での提訴の経緯についてご説明ください。

原発事故時の原告の年齢は6歳から16歳。すでに高校や大学に進学し、社会人になった原告もいる。その過程で甲状腺がんが見つかり、全員が手術を受けている。7人のうち4人でがんが再発し、4度も手術を受けた原告もいる。リンパ節や肺への転移が見つかった原告も少なくない。

手術で甲状腺を摘出すると、甲状腺ホルモンを補充するための治療薬を毎日欠かさず服用しなければならず、体調管理も難しい。就職や結婚といった将来に不安を感じ、人生を狂わされたことの重大さは、容易に表現できるものではない。

原告が甲状腺がんの診断を受けてから提訴に踏み切るまでに、かなりの年月を要したことには理由がある。手術を受けてからしばらくの間は体調も悪く、日常生活を送るだけで精一杯だったと思う。

国や専門家による「原発事故による被曝量は小さく、甲状腺がんとは無関係」というキャンペーンが続き、甲状腺がんであることを周囲に打ち明けることもできず、孤立感に苦しむ原告も少なくなかった。

しかし自分だけの問題であれば、原告は裁判には踏み切らなかったと思う。原発事故後に福島県が実施した県民健康調査で、「甲状腺がん、または甲状腺がんの疑い」と診断された子どもはすでに300人を超えている。原発事故と無関係ではないと考え、自分が声を上げることの社会的な重要性を認識して提訴に踏み切ったのだと思う。

将来を見通せない原告の苦しみ

――原告は裁判でどのようなことを述べていますか。

手術を前にした言い知れぬ不安や手術後の激しい痛み、苦しさに加えて、多くの原告が将来への不安を打ち明けている。

「甲状腺がんの再発で大学を辞めざるをえなかった」

「恋愛も結婚も出産も、私とは縁がないものだと思っている」

「これからの医療費はどうなるのか。病気が悪化した時の生活をどうすればいいのか」

「漠然とした不安。これから先のことも考えられない」

原告は意見陳述でこのように述べている。

「裁判を通じ、甲状腺がんになった人が福島圏内だけでも300人以上いることを知った。自分が思っているよりもはるかに多い人が甲状腺がんで苦しんでいる。このことの重大性を知り、今、立ち上がらなければならないと思った」と、ある原告は語っている。

「提訴以前、原告同士のつながりはほとんどなかったが、裁判を通じてお互いの体験を知ることができ、絆を深めることができたと感じている」と述べた原告もいる。

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