置き去り防止に一役「バス降車ボタン」意外な進化 バス機器のレシップ開発、無線式で電池も不要

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販売開始してほどなく、無線式ボタンに転機が訪れる。2022年9月、静岡県牧之原市の認定こども園で女児が送迎バスに置き去りにされて死亡する事件が発生。国は関係省庁による対策の検討を開始した。

同社も置き去り防止支援装置のプロジェクトチームを立ち上げた。ホームページには「バス用製品を生かして何かできないか」といった意見が複数寄せられたという。担当者も「当社は一般消費者向け製品を発売していないため、このような問い合わせは、通常ではいっさいなかった」と驚く異例の出来事だった。

11月28日、無線押しボタンのシステムを活用した車内置き去り防止支援装置を開発したと発表した。

無線押しボタンのシステムを活用した車内置き去り防止支援装置
無線押しボタンをベースに開発した置き去り防止車内点検支援装置(記者撮影)

その後、国土交通省が定めたガイドラインにも適合。エンジンが停止すると繰り返しブザー音が鳴り、車内後方のボタンを押さないと止まらない仕組みで、運転者に車内点検を促す。一定時間ボタンが押されないと警報音で車外へ知らせるほか、装置が故障した場合にはアラートが出る。

ボタンは子どもの手が届かない場所に設置する。同社は路線バスと同様、「配線工事が不要であり既存車両への後付けが容易」と無線式の利点をアピールする。定価は12万円(税抜き)。

2023年4月から幼稚園や保育所、認定こども園などの送迎用バスに安全装置を装備することが義務化された(1年間は経過措置)。設置には1台当たり17万5000円を上限に補助金が出る。

路線バスに応用も

同社企画部の笹尾哲平さんは「スピード感を持って開発する必要があったが、命に関わる製品なので品質では譲れないところがあった。結果として胸を張って出せる製品になった」と話す。置き去り防止支援装置は、自動車部品メーカーなど複数社が開発しているが、レシップではバス用機器でつちかった製品への信頼が強みになっているという。

一方、路線バスでも車庫に戻ったバスの車内に乗客が取り残される事案がたびたび発生している。同社はバス事業者の終業時の車内点検用としての需要も開拓する。小さなボタンではあるが、バスの安全に大きな役割を果たしていくことになりそうだ。

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橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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