石破茂氏「専守防衛は軍事的には極めて困難」 党きっての防衛通が語る「あるべき安全保障」

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塩田:時代の変化に伴って、安全保障で個別の新しい問題が生まれています。サイバー攻撃を受けるような場合、これが憲法第9条の交戦権に入るかどうか、つまりサイバー攻撃に対する反撃は憲法第9条が禁止している武力の行使に該当するかどうかという問題も出てきますが、それ以前に、サイバー攻撃というのは、そもそも武力攻撃に当たりますか。

石破:コンピューターのキーをたたいただけで、武力攻撃と同じような破壊力を持つ場合、つまり、わが国の発電所、水道のような重要インフラシステムが破壊されたり、通信が断絶したり、といった場合は、「わが国に対する急迫・不正の武力攻撃」と認定することは可能だと思います。であれば、どの段階で認定するかということと、向こうはキーをたたいているだけだから、それに対していかなる反撃が可能か、ということをきちんと法的に詰めなければなりません。

日本に対するサイバー攻撃を、どこの国の誰がやっているか、それを突き止める能力は、必ずしもわが国は十分ではない。中国のサイバー部隊は日本の何十倍もいる。自衛隊にもサイバー防衛隊はあるけど、やるのは自衛隊のコンピューターシステムの防衛です。民間も含めた社会のネットワークやインフラシステムをきちんと保全する役割を、自衛隊、警察、あるいは総務省のどこがどう受け持つか、それも明確ではない。

能力的にもマンパワーの面も、ものすごく劣後しています。その能力を持っているのは、ひょっとしたら民間企業かもしれない。ハッカー少年、ハッカー少女みたいな能力をどうしたらとりこめるか。民間企業で年収何千万円ももらえる人材だと、統合幕僚長や事務次官よりも給料が高い。そうすると、給与体系から見直さなければならないか。そういう体制づくりは急務です。

「共同生産、共同使用は世界の流れ」

塩田:防衛装備の技術革新や、国産の装備の海外移転の問題は。

石破:私は防衛庁長官の頃から、武器輸出については積極的に行うべきだと主張してきました。航空機、艦船、車両、どれも新しくなるたびに価格が何倍にもはね上がる。最初にわが国が入れたジェット戦闘機はF-86ですが、F-104、F-4、F-15となり、今、F-35で、価格は10倍以上。だんだん納税者の負担に耐えられなくなってきたと思う。

技術は高度化していくうえに、陳腐化も早く、開発のリスクは高い。加えて、同盟国・同士国間では相互運用性(インターオペラビリティ)を高めていかなければならない。であれば、コストと技術的な困難性を多くの国でシェアしていくことが必要です。日本だけの装備みたいなことを大切に守っていても、コストは高い、技術開発リスクは高い、相互運用性はないということで、まったく国家の利益にならない。

私はかねて、国際的な共同研究、共同開発、共同生産、共同使用が抑止力を高めると考えています。逆に戦前の日本では、主要な装備品を自前で造れる、外国から輸入しなくてもやれる、となったときからコントロールが利かなくなったのではないかという気がします。

防衛庁長官の頃から、「共同研究、共同開発、共同生産、共同使用はこれからの世界の流れ」と答弁していましたが、結局そうなっています。そのうえで、わが国の方針や国益に反する国には、武器は売らない。メンテナンスもしない、ということにすればいいわけです。

海外展開の課題としては、日本の造る戦闘機も艦船も車両も実戦経験がないので、カタログだけで見るとすごいけど、実戦データがない、という点があります。また、各国がどんなものを必要としているか。マーケットの動向を探る能力にも乏しいですね。

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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