■ 岸田政権の支え・その2「受動的環境適応」
これまでの岸田政権の推移を見ていると、例えば安倍政権であれば、議論だけでも相当な時間を費やしそうなテーマが、どんどん決まっていくことに気がつく。
「エネルギーが不足していて高い」といった環境変化には、原発の再稼働方針や耐用年数の延長がさしたる議論もなく決まった。日本のいわば親会社であるアメリカの要求に応えるためだろうが、防衛予算の対GDP比2%までの倍増方針がスイスイ決定された。
また、過去の政権なら、与野党の激論必至の敵基地攻撃能力の保有も、気がついてみたら当然だろうという話になっている。岸田氏の出身派閥である宏池会は平和主義ではなかったか、などということへのこだわりもいっさいない。アメリカから武器を買うために必要な方針なのだから、仕方がない。
被爆地・広島で行われたG7サミットも平和や核廃絶にこだわることなく、ロシア・中国を敵視する軍事同盟の強化をうたうイベントにした。また、NATO(北大西洋条約機構)が日本に事務所を置くことになるらしい。ウクライナの戦争を続けつつ、戦争ムードを盛り上げたいアメリカの意に沿った行動だ。
最近では、政策秘書に起用していた長男の岸田翔太郎氏の更迭を決めた。身内をかばいすぎてタイミングが遅かったとの批判があったが、世論調査で批判が多く、内閣支持率の押し下げ要因になっていることが明らかになったらすぐに決めた。
「子会社の社長」を「愚民」が支える
岸田首相としては普通の「環境適応」なのだろう。人の子の親としてこのケースを眺めると、子供のしつけや教育に失敗した少々気の毒な例にも見える。だが、父親である彼は自分のルールどおりに、初めは息子に甘く、しかし世論調査の結果が出ると淡々と息子を処分した。
岸田文雄首相個人からは、政治家としての信念や政策に対するこだわりが驚くほど何も感じられない。彼は「環境が変われば、それに適応する以外に仕方がない」と心から思っているのだろうし、本人はその自覚さえないかもしれない。かつて「風見鶏」などと称された宰相がいたが、岸田氏は風を見るどころか、風にそのまま乗っているかのように、純粋に受動的に政策と行動を決定している。
環境に対して、超受動的に行動されると、政敵は岸田氏を攻撃する糸口を見つけることが難しい。「だって、仕方がないではないですか」という顔をされると、それ以上に突っ込みようがないのだ。
実質的にアメリカの子会社のようであって、国家としての主体性を持つことができない日本という国にあって、岸田首相は最も条件にふさわしい資質を備えた首相なのかもしれない。生まれついての「子会社の社長」体質だ。それを、さらに「愚民」が支えているのだから、この内閣は見かけ以上に強力かもしれない。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
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