ネット葬儀の価格破壊で「下請け」業者は悲鳴 零細業者は「ただの『遺体処理業』か」と吐露
薄利であっても葬儀業者がネット業者の「下請け」をやめないのはなぜか。その理由は葬儀業者の集客力の乏しさにある。
葬儀コンサルタントの清水宏明氏は、「地方の零細業者はプロモーション力がない。ネット戦略もITに特化したネット業者には到底かなわない」と指摘する。
その結果、自力で仕事が取れなくなり、取れたとしても単価が低い仕事ばかりになる。利益が出なければ、営業をかける体力も失われていく。「結局、ネット仲介で集客せざるをえないが、利幅が小さいため、量をこなすしかなくなっていく」(清水氏)。
葬儀単価の低下と薄利多売を加速させているのは、葬儀業者自身でもある。ネット業者が値下げできるのは、値下げをしても引き受ける葬儀業者がいるからだ。
あまりに低価格な葬儀は引き受けないという業者もいる一方で、「食うに困った零細業者の中には、安くても何でもやるという業者が増えている」(都内の葬儀業者)。引き受ける業者がいる限り、葬儀価格は下がり続ける。
こうした下請け業者には、「大手の葬儀会社から独立して事業を立ち上げた一人親方も多い」(同)という。かつては歩合制で給与水準が高かった葬儀会社の給与が下がり、独立する人が増えた。ネット仲介に頼れば自分で集客せずとも紹介で仕事を得られるため、独立しやすく、新規参入が加速したという側面もある。
実際、葬儀業者の事業所数は20年前の約5倍の2544事業所(2020年時点)にまで増えた。葬儀の簡素化が加速したコロナ禍の20年以降も増え続けている。
退場する業者も多い
だが、新たに入場する事業者が増える一方で、経営不振によって退場する業者もまた多い。
「年十数件葬儀を受けていれば食べていけた家族経営の業者は、ここ15年ほどでほとんど淘汰された」
そう話すのは、1998年から葬儀紹介の東京葬儀社総合案内センターを運営している三国浩晃氏だ。ネット仲介に詳しい三国氏は、ネット仲介の葬儀が増えた影響をこう指摘する。
「従来は葬儀業者が喪主や家族との打ち合わせの中で、その人にベストな葬儀を提案してきた。しかし定額のネット葬儀では、提案をして追加費用が発生すると、仲介したネット業者にクレームが行く可能性がある。そうなれば次の紹介につながらない。葬儀業者は『余計なことをしないように』と、客よりもネット業者のほうを見て仕事をするようになった」
30年間葬儀業に携わる葬儀会社の経営者は、「このままでは葬儀業者はただの『遺体処理業』になり下がってしまう」と危惧する。
葬儀業者がネット仲介への依存体質を変えなければ、自らの首をますます絞めることになるだろう。
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