1.5億円税務事件の背景にある「寺院存亡危機」 過疎地で7寺を兼務していた地方寺住職の悲哀

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国税局職員は和歌山の寺へ調査にやってきた際、住職にこう言ったという。「兼務寺ってアルバイトみたいなものでしょ」。

住職はNPO理事長や保育園の理事長、社会福祉協議会の評議員などを務めている。NPOでは、高齢者が病院や買い物に行く際に、低料金で利用できる「福祉有償運送」を始めた。公衆浴場でボイラーが壊れ、しばらく放置されていることを知ったときは、役所や政治家に掛け合って修理させたりもした。

「7つの寺をアルバイト感覚で兼務しているつもりはありません。この地域で暮らす人々の生活に責任を負っているつもりでいます。過疎化はさらに深刻化する。私の跡を継ぐ者はもっと苦労する。次の世代が難局に立ち向かえるよう、少しでも貯蓄をしておきたかった。だから兼務寺のお布施は極力使わずに残してきたのです」(住職)

迫る「仏教存亡の危機」

この税務事件は2月、臨済宗妙心寺派の宗議会でも議題に上った。宗務総長が「紛れもない不正行為」「誠に腹立たしく、慚愧(ざんき)の念に堪えない」と厳しく指弾する。これに異論を唱えた住職がいる。實相寺(香川県高松市)住職の山本文匡・宗議会議員だ。山本氏は「1人の住職が7〜8カ寺を兼務しなければならない状況こそ問題なのではないか」と唱えた。

本誌の取材に応じた山本氏は「あの地域は早くから過疎化が進み無住寺院が増えていた」と話し、「危機の本質」に言及する。

「寺院の経済的基盤を担ってきた檀家や葬儀、法要の数は今後さらに減少してゆく。個々の寺の存続も大切だが、仏教存亡の危機が迫っている気がしている」

1.5億円税務事件は、図らずも、仏教界が直面する危機の本質を浮き彫りにした。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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