1.5億円税務事件の背景にある「寺院存亡危機」 過疎地で7寺を兼務していた地方寺住職の悲哀

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ほかにも屋根が剥がれ落ちたり、水害で損壊したりするたびに、住職は「個人口座」で管理していた資金から修繕費を拠出してきた。

住職は言う。「1つの寺の収入は少ない。屋根が剥がれ落ちた寺の檀家数は約10軒で法人年収は10万円前後。水害に遭った寺の檀家数は約30軒で法人年収は30万円前後です。葬儀や法事が年に数回あるかないか程度。個々の寺には財政的余力がない。だから7つの寺からいただいたお布施を、必要な寺に必要な分だけ拠出する方策をとってきたのです」。

摘発された額1.5億円は巨額だが、前述のとおり、2つの寺は計12カ寺を兼務しており、本寺を合わせると14カ寺の合計額となる。1カ寺当たりの平均年収を割り出すと150万円前後だ。

西日本にある臨済宗妙心寺派の住職は本誌の取材にこう答えた。

「数軒〜数十軒しか檀家のいない過疎地の寺では微々たるお布施収入しかなく、寺の機能を維持していくのは困難です。うちの寺の法人年収は1000万円近くあり、恵まれているほうですが、事務費や旅費、保守・管理運営費に500万〜600万円かかり、私の年間給与は賞与を入れて210万円。光熱費の一部は自分の給与から出しており、手取りは月9万円程度。息子に寺を継げとはとても言えません。比較的恵まれているうちの寺ですらこういう状況ですから、7カ寺も兼務していた和歌山の住職が四苦八苦していた状況は容易に察しがつきます」

正しい税務行政なのか

とはいえ、無住寺であれば管理運営費はそうかからない。和歌山の住職は、兼務寺のお布施はほぼ使わずに貯めていたという。

「私は酒も飲まないしギャンブルもやらない。趣味といえば庭の土いじりくらいしかない。いただいたお布施はほとんど使わず口座に貯めている状態でしたが、それでも個人口座に入れた時点で追徴課税の対象になるということでした」(住職)

元国税査察官で税理士の僧侶、上田二郎氏は「兼務寺の布施が給与と見なされたのはやむをえない。管理口座の動きを見ていないので断定はできないが、住職の話が本当なら、どこに仮装・隠蔽行為があるのか。これに一般法人の売り上げ除外のごとく重加算税を賦課し、結果的に無住寺の積立資金をすべて奪ってしまうことが正しい税務行政なのか、疑問だ」と語る。

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