1.5億円税務事件の背景にある「寺院存亡危機」 過疎地で7寺を兼務していた地方寺住職の悲哀

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5月中旬、記者が訪れたのは、追徴課税を受けた2寺のうちの1寺。匿名を条件に取材に応じた住職は、こう釈明した。

「兼務寺の収入を個人の口座に入れて管理していました。本寺の会計と一緒にしてはまずいだろうと、先代からそういう形で管理していたのです。ただ、個人口座で管理をするのは会計処理として間違いでした。そこに気づかなかった私のミスです。全国で奮闘している住職の皆さんには申し訳ないことをしました」

住職はそう詫びつつ、この地域の窮状について語った。

「地方の実情についても理解してほしいのです。この辺りは少子高齢化や人口減少が早くから深刻でした。私が40年前に先代から本寺を引き継いだ時点で、すでに5寺を兼務していました。私の代になってからさらに増え、現在は7寺を兼務しています」

国税局に摘発された和歌山県の住職が取材に応じた

兼務住職となるには覚悟が要る

過疎化で檀家数が減り、寺の機能を維持できなくなった寺は、解散して近隣の寺と統合するか、あるいは兼務寺となるしかない。檀家にとっては苦肉の策だが、住職の側も、兼務住職となるにはそれなりの覚悟が要る。

この住職も以前、兼務寺の1つで雨漏りが発生した際、修繕をどうするかをめぐり檀家たちと車座になって話し合ったことがある。選択肢は3つ。解散して住職の本寺と統合するか。集会所の隣に1部屋設け、そこを本堂として使うか。小規模なものに建て直すか──。檀家たちは「建て直す」選択をした。元手となったのが7つの寺から集めたお金、つまり住職の「個人口座」だ。費用がかさむ宮大工ではなく、地元の大工に発注して建て直したという。

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