決算書が物語るニトリと良品計画の決定的な違い 「時系列比較」でビジネスモデルの変化読み解く

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下のグラフは、ニトリホールディングス(HD)と良品計画の棚卸資産回転期間(=棚卸資産÷平均日商)の推移をまとめたものだ。棚卸資産回転期間とは、棚卸資産(在庫)が売上高の何日分に相当するのかを示す指標で、在庫を仕入れてから販売するまでの期間の目安となる。

戦略上の差が浮き彫りに

同じ家具・インテリア・生活雑貨の領域でビジネスを展開する2社だが、このグラフによれば、良品計画では2000年からの約20年間で棚卸資産回転期間がじりじりと長期化した一方、ニトリHDは一定水準をキープ。2022年2月期では両社の棚卸資産回転期間に大差がついていることがわかる。

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その理由とは何だったのか。良品計画は、12年2月期ごろから売り上げ規模を拡大するためにアイテム数の拡充を行ってきたが、それに伴って在庫管理が難しくなってきたという点が指摘されている(2020年11月20日付日経MJ)。また同社は、2018年2月期ごろから主力商品の価格引き下げを継続的に行っており、これに伴って発注ロットが大きくなってきている可能性がある。こうした点も、棚卸資産回転期間の長期化に影響していると推測される。

一方、ニトリHDが棚卸資産回転期間を短く保てている理由の1つには、生産拠点や物流拠点を自社で保有するなど、効率的な生産・物流の仕組みを構築してきたことが挙げられる。また、発注頻度の低い商品については顧客への納期を長めに設定することで、受注生産に近い売り方になっている点も、回転期間の短縮につながっている可能性がある。

このように、「時系列比較」の視点と「同業他社比較」の視点を組み合わせることで、各社の戦略上の特徴や、時系列で見たビジネスモデルの変化をより深く分析できるようになる。

矢部 謙介 中京大学国際学部・同大学大学院経営学研究科教授

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やべ けんすけ / Kensuke Yabe

専門は経営分析・経営財務。1972年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同大学大学院経営管理研究科でMBAを、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)を取得。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)および外資系経営コンサルティングファームのローランド・ベルガーにおいて、大手企業や中小企業を対象に、経営戦略構築、リストラクチャリング、事業部業績評価システムの導入や新規事業の立ち上げ支援といった経営コンサルティング活動に従事する。その後、現職の傍らマックスバリュ東海株式会社社外取締役や中央大学大学院戦略経営研究科兼任講師なども務める。

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