中国マイクロEV「雷丁汽車」が経営破綻の深層 「グレーゾーン商品」からの脱皮を図るも失敗

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雷丁汽车は、かつて中国の農村部や地方の小都市で人気を集めた「低速EV」のトップ企業だった(写真は同社のSNSアカウントより)

中国の新興EV(電気自動車)メーカーが、また1社破綻した。山東省濰坊市に本社を置くマイクロEVメーカーの雷丁汽車だ。同社は5月5日、地元の裁判所に破産を申請した。

2012年に創業した同社は、かつては「低速EV」のトップ企業だった。低速EVとは、最高時速が70キロメートル以下で、駆動用電源として鉛蓄電池を搭載する4輪車のことだ。中国の法規上は「自動車」ではないため、ドライバーは運転免許を取得しなくても運転できる。

低速EVはある種のグレーゾーン商品として、中国の農村部や地方の小都市で人気を集め、2017年の市場規模は約130万台に達した。しかし国が定める自動車の安全基準の適用外という、重大な問題を抱えていた。2018年11月、自動車産業を所管する中国工業情報化省は関係省庁と共同で通達を出し、低速EVの規制強化に乗り出した。

それをきっかけに、低速EVメーカー各社は事業戦略の見直しを迫られ、一部の大手企業は自動車メーカーへの転換を図った。雷丁汽車もその1社であり、2019年に四川省の自動車メーカーを買収して(中国政府が発給する)自動車製造のライセンスを入手。2021年4月からマイクロEVの量産を開始し、同年に10万台を販売する計画だった。

創業者が地元政府トップを告発

しかし現実には、雷丁汽車の2021年の販売台数は約3万台にとどまり、2022年は2万台にも届かなかった。背景には製品の競争力不足に加えて、同社の資金繰りの悪化があったとみられる。

雷丁汽車は2022年10月以降だけで、100件を超える民事訴訟に巻き込まれている。そのほとんどが売買契約や融資契約をめぐるトラブルだ。原告は取引先の部品メーカーや完成車の販売店、金融機関などであり、雷丁汽車に対して代金の支払いや貸付金の返済を求めている。

注目されるのは、雷丁汽車の創業者の李国欣氏が、2023年1月14日に会社のSNSアカウントを通じて「公開告発状」を発信したことだ。そのなかで李氏は、濰坊市昌楽県の共産党委員会書記(訳注:県政府のトップ)が雷丁汽車に対して(数字を水増しした)虚偽の生産実績と売上高を報告するよう要求したと主張した。

本記事は「財新」の提供記事です

この告発に対し、(昌楽県の上級政府である)濰坊市政府は直後に声明を発表。「山東省政府と濰坊市政府の合同調査チームがすでに発足しており、法規に則って対応する」と請け合った。

しかし雷丁汽車の破産申請後も、濰坊市政府は調査の進捗を公表していない。

(財新記者:余聡)
※原文の配信は5月8日

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