「放送離れ」でTVer利用者が増えている驚きの現実 キー局決算で見る「テレビ業界再成長」の可能性

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実は、このFASTサービスが「テレビの次のテレビ」ではないかと私は考えている。前述のLeminoの記事でも書いたが、今VODを使っていると、次にどれを見るかで悩んで結局見ないことが多い。「選ぶ」というのは億劫な作業なのだ。だからといって今の「放送」のようになぜか7時から9時には似たような出演者の同じようなバラエティだらけなスタイルには戻れない。

FASTなら、今はニュースが見たいと思うならニュースチャンネルに合わせると延々ニュースばかり流れる。スポーツが好きならスポーツチャンネルを選べばいい。好みの分野、その時見たい分野だけ指定して、つけっぱなし流しっぱなしで、時々本当に興味ある部分だけ見ればいい。スマホをいじりながらの気楽な視聴にもいい。それならCMだって全然我慢できる。
FASTとはそういう、さほど熱心に見たいわけではないがなんとなくつけておきたい自堕落なテレビの見方にぴったりなのだ。そしてそもそも、これまでテレビ放送が栄えてきたのは、そんな自堕落な見られ方に向いていたからではないか。だからこそ、CMを自然に見てもらえた。FASTは同じようなCM接触を再現できる。

成長性が高そうなFASTは日本では難しい

Leminoも実は無料領域はFASTでやりたいと随分真剣に議論したそうだ。だが、日本のコンテンツ業界の状況を鑑みて具体的に検討するほど難しいとわかった。そして同じようにFASTを立ち上げようとして断念した某大手メディア事業者の話も最近聞いた。

つまり、成長性が高そうなFASTは日本では難しいのだ。それは著作権処理の問題だろう。TVerで配信されている番組も、著作権をクリアするために相当な作業をしている。FASTを具現化するには莫大な数の番組の、さらに莫大な作業を要する著作権処理が必要だ、ということなのだと思う。

なぜアメリカではFASTが成長しテレビ業界を再び押し上げているのに、日本ではそれが「難しい」のか。放送と通信がいまだに分かれているからだろう。欧米では通信を放送と同等にみなす制度改正が2000年代に行われた。日本でも2000年代後半にまったく同じ議論が展開された。だがなぜかこの国は「放送と通信は別」にする選択をした。

それがこれまでもテレビ局のさまざまな新たな取り組みの障害になってきたが、今はここにこそ再成長のチャンスありという選択肢を潰しているのかもしれない。日本の成長を妨げているのは、日本自身の選択の結果なのだ。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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