東急、田園都市線の引退車両「一般販売」した背景 病院が「8500系」を購入、設置に向けて工場搬出
工場内をクレーンで吊り上げられていく、正面に赤いラインの入った銀色の車体――。東急田園都市線で2023年1月まで半世紀近く活躍し、沿線住民であればおなじみの電車だったに違いない「8500系」だ。一見すると車体の検査や整備中の様子に見えるが、車体正面に表示された行先は中央林間でも押上でもなく「東京さつきホスピタル」。引退した車両を、この名の病院に譲渡するための搬出作業だ。
東急電鉄は2021年10月、引退した8500系4両を一般向けに特別販売すると発表。その結果、販売が決まった1件が、行先表示にある東京都調布市の精神科病院「東京さつきホスピタル」だった。4月下旬、8500系の「8530」号は、長年走り慣れた東急沿線の長津田車両工場(横浜市)からトレーラーで搬出され、保存のための整備を行う工場へと向かった。
一般販売は「今回が初めて」
東急は以前から引退車両を全国各地の地方私鉄に譲渡しており、8500系も長野電鉄(長野県)や秩父鉄道(埼玉県)、さらにインドネシアでも走っている。だが、鉄道会社ではない一般向けに車両を販売するのは「今回が初めて」(東急電鉄鉄道事業本部・車両部の門田吉人さん)だ。大手私鉄全体でも珍しいのではないかという。
8500系は1975年に最初の車両が登場。ステンレス製の車体で、側面の波板「コルゲート」や前面の赤ラインが特徴だ。400両が導入され、主に田園都市線で活躍。長らく同線の「顔」だったが、新型車両の導入で次第に姿を消し、2023年1月に全車両が引退した。
引退車両を一般向けに販売するという企画が浮上したのは2021年半ば。その背景には、コロナ禍による鉄道業界の低迷があった。「もともとは8500系も譲渡する予定だったが、コロナ禍の影響もあってキャンセルとなり、200両以上をつぶさなくてはならない状況になってしまった」と門田さん。1両を解体するには200万円超の費用がかかるという。
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