東急、田園都市線の引退車両「一般販売」した背景 病院が「8500系」を購入、設置に向けて工場搬出

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東急はコロナ禍に突入した2020年度に営業赤字に転落し、定期利用者数の減少率が関東大手私鉄で最大となるなど、2021年度も厳しい状況が続いていた。「会社全体で費用節減に取り組んでいる中、お金をかけて車両を解体するよりは何かに活用できないか」――。引退した車両を欲しいという声も「噂には聞いていた」といい、車両を丸ごと一般向けに販売するという企画がスタートした。

初の試みだったが社内での反対などはなく、企画自体は「すいすい進んだ」(門田さん)。1つのリスクは車体に使用されているアスベスト処理の問題だったが、厚生労働省とも調整してクリアし、半年もかからず実現にこぎつけた。

販売した8500系は、8522号・8622号・8530号・8630号の先頭車両4両。台車や床下機器を含む丸ごとの「車両1両」、先頭部の運転室付近を切り取った「カットモデル」、そして車内の運転台のみという3つの販売形態で売り出した。1両丸ごとの販売が優先で、これが売れなかった場合はカットモデル、さらにこちらも売れなかった場合は運転台を販売するという流れだ。

東急8622F 8630F
現役当時の8622号と8630号(写真提供:東急電鉄)

販売は2021年10月に開始。約1カ月半にわたって購入希望を受け付けたところ、1両丸ごとは17件、カットモデルは2件、運転台は9件の申込があった。

車両自体は高くないが…

1両丸ごとの販売価格は税込みで176万円。「簿価的にはもう少し高いが、地方譲渡などの際の価格も勘案して妥当と思われる額に設定した」(門田さん)。1両丸ごとの購入希望者はほぼ法人で、販売が決まった病院のほかにはアウトドア施設などがあったという。

車両自体の価格は一般的な乗用車の新車より安いほどだが、問題は置き場の整備と輸送・設置の費用だ。8500系先頭車両の重さは約30トンあり、「庭先に車を置くような感覚では設置できず、普通の土の上に置いたらめり込んでしまう」と門田さん。設置後の管理にもコストと手間がかかるため、「管理が不十分なまま放置されて朽ち果て、『何とかしてくれ』と言われるようなことは絶対に避けなくてはいけない」。そこで、販売に際しては「弊社内で審査のうえ、車両を適切に保存していただくことが可能と判断できる方への販売とさせていただきます」との但し書きを付けた。

幸い、申込者は8500系に愛着の深い人ばかりだったといい、「放置」などの懸念は消えた。だが、東急側で17件の申込者の設置予定場所を1つずつ確認していくと、長さ20mある車体を搬入するための大きな道路が近くになく、吊り上げて搬入するためのクレーンも使えないなどの物理的制約から、そもそも設置が困難なケースが少なくなかった。さらに、想定される輸送費などの概算を示すと、購入希望者側が辞退するケースもあった。

クレーンで吊り上げられる8500系
搬出のためクレーンで高さ7mまで吊り上げられた8500系の車体(記者撮影)
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