便利になる?JR東日本、Suica「見えない大変化」 運賃計算クラウド化、割引クーポンなど可能に

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他社の交通系ICカードを見ると、例えば在来線の営業範囲がそれほど広くないJR東海の「TOICA」は同社管内が1つのエリアとなっており、自社線内で「エリアまたぎ」の問題は起きない。

交通系ICカード相互利用の一覧
相互利用できる全国の交通系ICカード(編集部撮影)

JR西日本の「ICOCA」は利用可能エリアは広範囲だが、営業キロ200kmを超える場合は使えない。例外として、大阪近郊区間内や同区間と特急停車駅での利用、また特急「やくも」の停車駅相互間利用はできる。距離と特急停車駅といった制約を設ける一方で、その区間は特別に計算できるよう、改札機内のコンピューターのプログラムを改良してあるということだ。

だが、JR東日本は同社管内すべてでSuicaが使えることを将来の目標にしている。そのためには、システムそのものを変えなくてはいけない。

新システムは「センターサーバー方式」

新しいシステムは「センターサーバー方式」だ。改札機にICカードをタッチすると、ネットワーク回線を通じて情報がサーバーに送られ、そこで運賃計算する。その結果をもとに、改札機で運賃を引き去るという仕組みだ。つまりは「クラウド化」だ。

改札機内でエリアをまたぐ運賃計算を処理するには、各改札機の中のコンピューターに複雑なプログラムを組み込まなければならなくなる。「スマートフォンのアプリでも乗り継ぎや運賃を調べられるじゃないか」と思う人がいるかもしれないが、そういったアプリはスマホ内ですべて計算しているわけではなく、サーバーと通信することでさまざまな処理をこなしている。

JR新宿駅改札口
JR新宿駅の改札口。大勢の利用者をさばくことのできる高速の計算処理が求められる=2020年7月(撮影:梅谷秀司)

運賃計算を改札機内のコンピューターから処理速度の速いセンターサーバーに移行することで、より複雑な計算に対応できるようになるだけでなく、改札機やシステム改修時のコストダウンも図れる。サーバー台数の変更などで拡張性も向上する。

このシステムは、5月27日から青森・盛岡・秋田の3エリアでまず導入し、夏以降に首都圏・仙台・新潟エリアに拡大する。これによってSuicaエリアの統合が可能になるだけではなく、時間帯や曜日による割引クーポン、鉄道沿線の生活サービスと融合した商品の提供、今後導入予定の鉄道チケットシステムでのワンストップサービスが可能になるという。

ただ、限界もある。JR東日本によると、このシステムを導入してもJR会社間をまたいでのエリア統合はないという。例えば長野県の諏訪エリアからJR東海管内の駒ケ根・飯田などへは、新システム導入後もICカードでの乗車は困難なままだ。

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