アップルが「高金利の預金サービス」始めた裏事情 iPhoneユーザーは「より信用に値する」のか?

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既存のクレジットスコアに現れてこない、つまり今まで信用を前提としたサービスを受けられなかった人たちに対して、信用を与えられるというデータを作り出すことに成功したのではないだろうか。アップルはApple Cardのユーザーの返済行動が、より信用に値するというデータをつかみつつあるのではないか。

Apple Cardは、iPhoneユーザーしか作ることができないため、こう踏み込んで言うこともできる。「iPhoneユーザーは、より信用に値する」という金融的なデータを得つつあるのではないか、ということだ。

顧客と直接つながる中で「機会損失」を排除

アップルはApple Cardを通じて、アップル製品を購入する際に24回払いまで、金利手数料をゼロにする取り組みを行ったり、クレジットカードを伴わない後払いサービスを提供している。つまり、自社製品を購入しようとするユーザーに対して、金融的な「信用」をより大きく与えようとしているということだ。

Apple Cardのユーザー行動の分析が、アップル製品を購入する人に有利な条件でお金を貸し出すことにつながっているとすれば、アメリカに限らず、世界中でアップル製品を買うための金利や条件の優遇の根拠として活用されているならば、すでにApple Cardは大きな役割を果たせている可能性が高い。

こうした新しい信用の創造に関しては、日本でも同様の取り組みが見られる。例えば、信用調査会社のH.I.Fは「二十一式人工知能付自動与信審査回路」という、独自の信用情報を与えるサービスを提供している。定量データだけでなく定性データも用いてAIで信用情報を調査することで、これまでの信用情報からは融資を受けられなかった企業や個人に対しても、よりリスクが低い与信を提供できる仕組みだ。

こうした新しい信用情報を用いた融資をビッグデータとAIを用いて実現することは、特に製品を販売する企業にとっては、顧客が物を買ってくれるチャンスを逃してしまう「機会損失」を防ぐうえで重要な取り組みといえる。

日本ではまだまだ家電量販店や携帯電話会社のショップがチャネルとして根強く機能しているが、アメリカや日本以外のアジア圏では、より顧客と直接つながるD2C(Direct to Customers)がマーケティングの中心となっており、顧客の懐具合のサポートも、機会損失を防ぐ重要なマーケティング手段になりつつある。

アップルが金融サービスを提供する背景には、信用情報を作りこれを駆使することで、機会損失を防ぎながら、顧客に対して直接購買しやすい環境を提供することにある。ブランド価値による囲い込みから、「アップル独自の経済圏」での囲い込みへと移行し、その基盤を確固たるものにしようという戦略を見せつけられているのだ。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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