HPVワクチン「男性も接種したほうがいい」の理由 頸がんだけじゃない、陰茎や咽頭がんの予防も

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日本では2009年にサーバリックスが、2011年にガーダシルが承認されている。予防接種法に基づく法定接種の対象となり、小学6年生~高校1年生の女性を対象に公費接種が実施されるようになった。

ところが、副反応騒動が起こる。その後の迷走はご存じのとおりだ。2012年には欧州医薬品庁(EMA)、2013年には、世界保健機関(WHO)の諮問機関である「ワクチンの安全性に関する諮問委員会」が安全性を保証する声明を出している。いずれも、日本での騒動を念頭においた対応だ。

日本が迷走している間に、世界は進んだ。性交渉前の年代の女性への接種で、子宮頸がんを激減させることがイギリスや北欧から報告された。2021年12月にはイギリスのキングス・カレッジ・ロンドンなどの研究チームが『ランセット』誌に発表。その研究では12~13歳に接種した女性は子宮頸がんを87%、前がん病変を97%減らすと推計している。

HPVワクチンの効果は、接種していない者にもおよぶこともわかっている。

2012年7月、アメリカ・シンシナティ子ども病院の医師たちは、シンシナティ市内の若年女性のHPV感染率は、ワクチンが標的とする4つの型に関する限り、非接種者でも49%減っていたと報告している。一定以上人が免疫を持つことで、他の人への感染が予防できる集団免疫効果が示唆されたことになる。

厚労省によれば、2019年時点でのわが国のHPVワクチン接種率(3回接種完了)は1.9%だ。確たるエビデンスもなく、安全性に対する懸念をあおったメディア、一部の医師には猛省を求めたい。

HPV関与の頸がん以外の「がん」

実は、HPVが関与する悪性腫瘍は子宮頸がんだけではない。

腟がんの70%、陰茎がんの50%、肛門がんの80%、咽頭がんの25~60%はHPV感染が関与することが明らかになっている。陰茎がんは男性のがんだし、咽頭がんも、もっぱら男性に起こる。ちなみに、性器やその周辺だけでなく、咽頭にも感染するのは、オーラルセックスのためだ。

HPVワクチンが開発された当初、女性のHPV感染を防ぐために、男性も接種すべきという意見はあった。今、世界では、男性をがんから守るためにHPVワクチンを接種しようという意見が主流となっている。

では、HPVワクチンは男性にも効くのだろうか。どうやら、男性においてもHPVの感染を予防しそうだ。2009年10月、アメリカFDAは9~26歳の男性に対して、外陰部や腟にイボができる陰部疣贅(ゆうぜい) の予防目的にHPVワクチンのガーダシルを承認している。

2017年6月、アメリカ・ウォマックアーミーメディカルセンターの研究チームが、『米医師会誌(JAMA)腫瘍版』に発表した研究によれば、ワクチンを打った男性では、陰茎のHPV感染が75%減少していたという。

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