脳がフル稼働するのは「ハラハラするとき」だった 過去の経験から「安全なこと、楽なこと」を好む

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これは脳の特性で、日常生活を安全に送るためにはなくてはならない、大事なものです。しかし、一方で、いつも同じ思考回路を使うということは、いつも同じような考え方になってしまう、違うアイデアが出にくい、というデメリットもあります。

ハーバードの同僚たちはそのことを知っていて、思考がワンパターンにならないように、意識的に思考回路を変えることをつねに心がけていました。

実は、冒頭の「明日から、世界一周をしてください」というお願いは、私がハーバードの研究室にいた頃、同僚たちと実際に議論をしたことです。

そのとき、彼らがどうしたかというと、

「できない」

最初からそう言った人は誰もいなかったのです。代わりに、いかにジェット機を安く借りることができるか、時間を止めてその間に世界中を回れないか、本気で考えたのです。

不安を感じるほど「脳はフル稼働」する

では、ハーバードの研究員たちのように、柔軟な考え方をしてさまざまなアイデアが浮かぶ思考回路に変えていきましょう。

脳の特性だし、そんな簡単にはできない、と思うかもしれません。ところが、脳にいつもと異なる情報を伝えることで、思考回路は簡単に変えることができるのです。

そのために有効なのは、「ハラハラすること」です。

過去の経験から、脳は安全なこと、楽なことを好むとお伝えしました。その逆ともいえるのが、未経験のことがもたらす、「ハラハラ」です。ハラハラする感情は、いつもと異なる情報として脳に伝わり、思考回路に変化をもたらしてくれます。

私自身、ハラハラしたおかげで、結果を出せたことがあります。

2003年にハーバードの研究員として着任したときのことです。着任早々、それまで私にとってはまったく経験のない方法で実験をすることになりました。ボスから、未完の論文の完成を託されたからです。

入ったばかりの職場で取り組む初めての実験ですから、できることなら失敗はしたくないという不安な気持ちも当然ありました。しかし、大きなチャンスだという気持ちが勝り、「できます」と引き受けたのです。

結果的に、着手から2カ月で実験は成功。さらに、比較的短い期間で論文を書き上げ、ボスが望む結果を出すことできました。

そればかりでなく、私がチャレンジし習得した実験方法は、研究室のほかの誰にもできなかったものでした。世界でオンリーワンの実験方法が確立できたのです。そのため、着任からわずかの間で、ほかの人にテクニックを教える立場になれました。

最初はもちろん、できるだろうか、失敗したらどうしようと不安で、とてもハラハラしました。しかしそれにより、いつもと異なる情報で脳がフル稼働し、思考も行動も加速したのです。

ハラハラすることは日常のささいな場面でもたくさんあります。

たとえば、私はかつて、初対面の人と接するのが苦手で、セミナー会場などでは必ず隅っこの席に座っていました。しかし、ハラハラすることで脳が変わっていくことに気づいてからは、意識して会場の真ん中の席を選ぶようにしました。そうすることで人と話す機会が増え、出会いの幅が大きく広がったのです。

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