ただ、たとえばイオンでも「製造者固有記号検索システム」というサイトを立ち上げており、記号を入力さえすれば製造所名・所在地がわかるようにしている。「わざわざ検索してまで調べないよ」と思うかもしれないものの、製造所固有記号を表示しているほかの大手スーパーでも類似の取り組みを行っている。
一方で、1年後は同一商品を複数の製造所でつくらない場合は、生産者名の原則表示が求められるようになる。一定程度ではあるもののこれまで表には出ていなかった実態が、少しずつ明らかになっていきそうだ。
きっかけは農薬混入事件
この表示基準が変更されたきっかけは、2013年末にアクリフーズ(当時、現在はマルハニチロに統合)の群馬工場で起きた冷凍食品への農薬混入事件だった。
アクリフーズは大手小売業者のPB商品を生産していたものの、生産者として「アクリフーズ」の記載がなされていないため、消費者が混乱。回収もスムーズにいかなかったようだ。この一件が消費者団体をはじめとする各方面からの非難につながり、PB商品であっても生産者がわかるようにしていく方向に政策が転換されたのだ。
現在ではPB商品を、単一の工場だけに生産委託しているわけではない。地理的に分割するのはリスクヘッジにもなるし、生産の平滑化のためにも意味がある。たとえば東西でメーカーを分けることもある。
幸か不幸か、工場が複数にまたがるケースは、これからも例外的にもとの記号使用も許可される。これは包装コストが上昇するからだ。しかし、そのケースでも消費者からの製造所問い合わせには答える義務を負う。もちろん、わざわざ問い合わせをする消費者は多くないだろう。ただその際は、「なぜ書かないのか?」と消費者が一方的な不信感を抱くに違いない。
PB商品の生産者表示は是か非か
筆者はずっと調達・仕入れ領域のコンサルティングを行ってきた。製造業であればライバル会社の商品を分解(ティアダウン)し、そのメーカーを把握する。食品であればあの手この手を使って、ライバル企業の食品製造を請け負うメーカーを調査する。委託先メーカーの技術力は商品競争力の源泉だから、委託先だと判明したメーカーに対し、新たに自社への協力を打診する場合さえある。
だから通常は委託先メーカー名を秘密にしようとするし、そのメーカーをなんとか探し当てる力は、企業の仕入れ優位性とも直結する。ある意味、商品の委託先メーカーをバラすことは、ライバルに手の内を見せる状況につながる。
逆も容易に想像がつく。筆者は懇意にしているメーカーから、「(私の勤務企業にとっての)ライバル企業から生産を打診された」と聞かされたときは、「やめてほしい」と伝えたことがある。もちろん基本契約書を遵守し工業所有権を守れば、厳密な意味での制約はない。ただ倫理的なひっかかりがある。きっと、ライバル企業のPB商品製造が明るみになった際には有言無言のさまざまなプレッシャーがあるはずだ。
結局はメリットとデメリットをてんびんにかけるしかない。企業秘密をさらしたとしても、メリットが多ければ、あるいは他者(社)はまねできないと自負があれば公開するのも一手だろう。実際に委託先メーカー名をすでに記載している大手小売業者も少なくない。公開によってどれだけの売り上げ増(あるいは売り上げ減)になったかの統計的測定は難しい。ただ、少なくとも製造者を知りたい消費者ニーズには応えている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら