2輪車のショーが妙に「落ち着いてしまった」ワケ 東京モーターサイクルショーで覚えた違和感
若者による2輪車を使った暴走行為が社会問題となったのもこのころ。全国各地の高等学校や行政関連機関等が生徒に対して、「3ない運動」を提唱した。「2輪車の免許を取らせない」「2輪車を購入させない」、そして「2輪車を運転させない」という、3つの「ない」を意味して名付けられた運動だ。
続く1990年代以降は、ビッグスクーターなどさまざまな2輪車ブームが起こった。そして、ブームの移り変わりとともに、2輪車業界では「ライフスタイル系」という考え方が徐々に広がっていく。
そもそもライフスタイル系とは、衣食住を中心としたメディアに対して使われるようになった言葉だ。2輪車や4輪車のメディアは技術的な観点が主体で、そこに日常生活での使い勝手や旅行を想定した長期ライド(試乗)を紹介するスタイルを取ってきた。
対してライフスタイル系メディアは、人のライフスタイルの中核である衣食住を起点として、その中に2輪車や4輪車がある「生活の風景」を描いていた。
そして、2010年代半ば以降、スマートフォンの普及が進み、個人が情報発信の主役となるSNSが普及すると、「日常生活=ライフスタイル系」といった雰囲気が世の中に広がっていく。ここに、2輪車がうまくハマったのだ。
早期に成功したハーレー、乗り遅れた日本メーカー
2輪車メーカーや販売店の視点では、アメリカのハーレーダビッドソン等の輸入2輪車ブランドが日本の2輪車メーカーを先行して、2輪車のライフスタイル系をわかりやすく具現化し、ビジネスとして成立させた。
郊外のロードサイドに大型店舗を展開し、「ユーザーの集う場」を創出。さらに、限定モデルなど商品展開が早く、それに則したマーケティング活動を展開するようになった。
こうした市場の変化に対して、日本の2輪車メーカーは完全に出遅れた。2010年代に入ってからも、旧来のような「スポーティ」や「レジャー」といった観点で、街の2輪車販売店での販売を主な商流としていた。
だが、2010年代後半になると、さすがに日本の2輪車メーカーも重い腰をあげる。特にホンダは、本田技研工業(社内の呼称:本社)と本田技術研究所(同:研究所)が事実上の縦割り組織となっていたため、「市場のニーズをスピーディに商品へ適合させることができなくなっていた」(当時の研究所幹部)という指摘があったほどだ。
そこで、量産部門については実質的に、本社と研究所が合体するような大規模な組織改革を行い、少し間をおいて4輪車にも同様の仕組みを取り入れた。組織変革のプロセスの中で、ホンダは特に2輪車に対して、「世間でいう、ライフスタイル系とは何か」を自問自答し、商品企画に対する考え方を大きく見直すことになる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら