「限界でもやれ」頑張り方間違えたコンサルの盲点 クライアントが真に求める「最適解」を導く方法
「いや、それ逃げてるだけだよ。全然ダメ。全然ダメだよ。なんでそうなるんだよ」
最初は私が言っていることを正しくヤマウチが聞き取れていないのだろうと思った。しかし、ヤマウチは正確に状況を理解した上で、これまでにない怒り方をしていた。
「俺たちが限界だとか、俺が体調不良とか、そんなのお客さんになんの関係もないでしょ。なんでそれでやることが減ると思ってるの? いいわけないだろ。今すぐさっきのなかったことにしてくれって言ってきて」
自分の1週間の努力をすべて否定されたような気がしてショックを受けた。
「無理して倒れるくらいなら最初から引き受けなければいいじゃないですか」と反論し、そのまま電話を切った。職場に来られず、電話すらつながらないような状況を招いた人間にいったいなんの許可をもらえというのか。そう反発しながらも、頭の中ではヤマウチの言っていることの正しさを冷静に理解しているもう一人の自分がいた。
作業をしながら、涙が止まらなくなっていた。号泣する私の向かいの席には中井手というマネージャーが座っていた。論理的思考、技術的素養、体力、まさしく走攻守揃ったプロジェクトのエースマネージャーの中井手は、見かねて私をベランダに連れ出してくれた。
中井手は「自分で考えて決めたことなんだから、誰になんて言われても否定しちゃダメだよ。あと、プロなんだから人前で泣かない。もうこんな当たり前のこと二度と言わないね。あとは自分で立ち直って。俺たちはプロだから」そう言って、自分の仕事に戻っていった。
その夜、中井手は私と後輩を赤坂のバーに連れていってくれた。エースの中井手には無類の酒好きというもう一つの顔があった。私はウイスキーをあおるように飲んだ。ただでさえ寝不足の頭に数時間前に起きたヤマウチとの一件で、アルコールがぐるぐると体を巡っているのがわかった。
気づくとなぜか池袋の国道の中央分離帯で寝ていた。冬のツンとした空気の中、目覚めた私が最初に目にしたのは、国道の向こうから鮮やかに昇ってくる冬の朝日だった。あまりの美しさに、直感的に自分はもう死んだのだと思った。だが履歴を見ると、中井手とヤマウチからそれぞれ数十件の着信がきており、どうやらまだ生きているらしいということがわかった。
時刻は早朝6時。酒を飲み、国道のど真ん中で寝てみると、もはやすべてがどうでも良くなり、ヤマウチに自分の非を認める留守電を残しながら、家にたどり着くためのタクシーを探した。無論、中央分離帯で吐瀉物まみれになっている人間を乗せるタクシーはなかった。
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