エーザイ、知られざる「インド巨大工場」真の実力 医薬品の一大市場で託された2つの重大使命

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インドのアンドラ・プラテシュ州にあるエーザイのバイザッグ工場の外観
インド東海岸にある、エーザイのバイザッグ工場。街の喧噪とはかけ離れた、整然とした空間が広がっている(記者撮影)
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カラフルな三輪タクシーや車が行き交い、クラクションが絶え間なく鳴り響く。その道路の脇を、牛や子連れの豚が悠々と歩いている。

雑然とした道をしばらく進むと、工業団地の一角にたどり着いた。刈り込まれた芝生の敷地にヤシの木が整然と並ぶ空間には、一歩外の混沌とはまるで違う雰囲気が漂う。

ここはインド東海岸のアンドラ・プラデシュ州にある、日本の製薬企業・エーザイのバイザッグ工場だ。敷地面積は約6万坪(東京ドーム約4個分)、国内外にあるエーザイの工場で3番目の大きさを誇る。

内藤晴夫CEOが「重要な生産拠点」と位置づけるこの工場から、日本向けに認知症薬「アリセプト」などが輸出されていることを知る人は少ないだろう。なぜエーザイは、インドの片田舎に巨大工場を作ったのか。

中国と並ぶ「原薬」の一大供給国

バイザッグ工場は年間80トンの原薬製造能力を有し、日本のジェネリック薬向けの原薬が作られている。また、日本・インド向けの「アリセプト」や胃潰瘍薬「パリエット」など、年間約20億錠分に相当する製剤の生産能力を併せ持つ。がんや中枢神経系など、主力事業の研究開発拠点でもある。

原薬とは、薬に含まれる有効成分の元となる原料のこと。この製造機能を持ち合わせるエーザイの大型拠点は、茨城県の鹿島工場とバイザッグの2カ所のみだ。

実はインドは、中国と並ぶ原薬の一大供給国だ。厚生労働省が2022年に公表した調査結果よると、日本のジェネリック薬メーカーが輸入した原薬の仕入れ元は1914社に及び、最多は中国の364社(19.0%)で、次いでインドが318社(16.6%)となっている。

経済特区に位置するバイザッグ工場は海に近い地の利もあり、現在は生産した原薬・製剤の9割が日本向けに輸出される。目下、エーザイが新たな拠点を設立したアフリカへの輸出体制づくりも進んでいる。

インドが医薬品の一大市場となった背景には、もともと医薬品の製造に長けた優秀な人材が多く、先進国と比べても安価に雇いやすいという事情があった。

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