保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題
さらに、ターンオーバー問題は別の問題も引き起こす。それは優秀成績職員への依存と忖度(そんたく)だ。支社ごとに契約獲得数などの営業目標を課すケースが多い状況で、新人が定着しないのであれば、おのずと優績職員に頼らざるをえない。
そうなると、優績職員の立場が強くなり、部長や支社長でも口を挟めなくなる。何か注意でもしようものなら、「役員の携帯に直接電話して不満をぶちまけるといったことは、この業界ではよくある話」(大手生保幹部)。そうしたことが、優績職員が日中どこで何をしているのか、誰もわからないという状況を招くわけだ。
第一生命の19億円事件をはじめとして、生保各社の金銭詐取事案は、そうした優績者に対する管理・監督不足に起因している場合が多い。
第一生命では、長年にわたって染み付いてしまった悪弊を改善しようと、特別調査役などの肩書を見直した。採用についても人材の質を高めるために、ピーク時の半分以下に新規採用数を絞り込むといった取り組みを進めている。
業界内では、営業職員チャネルの改革が最も進んでいるのは第一生命という声が多い。だが実は、その裏側で、経営陣主導による必死の取り組みに冷や水を浴びせるような事案が発生していたことはほとんど知られていない。
損失を自腹で補塡
同事案が発覚したのは、21年秋のこと。当時、高齢の優績職員が付き合いの深い顧客に、投資話を持ちかけていたことがわかったのだ。預かった金銭をだまし取ったり、投資仲介で手数料を得たりしていたわけでは決してない。
ただ、投資先が筋悪の業者とは知らずに紹介したことで顧客が損失を抱えてしまい、優績職員はそれに焦ったのか「損失を自腹で補塡していた」(第一生命元役員)という。
これは保険業法に照らして、直ちに違反になるような行為ではない。しかし、第一生命が優績職員の営業適正化を進める中で、あってはならないグレーな行為だった。
第一生命社内でも一定の影響力を持つ優績職員だっただけに、同事案を知った役員たちの衝撃はそうとう大きかったようだ。
同事案について、第一生命は「営業職員を守りたいので、個人が特定できるような形で記事にしないでもらいたい」としているが、はたして今後どこまで隠し通せるだろうか。
この事案がきっかけかは定かでないが、金融庁は今、明治安田生命への立ち入り検査で、副業や投資勧誘行為の有無について、営業職員へヒアリングを進めている。もし同様の事例が多数見つかるようなことがあれば、金融庁の逆鱗(げきりん)に触れ、さらなる処分や規制強化があるかもしれない。
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