大成建設、前代未聞「ビル工事やり直し」の内幕 高層ビルの工事で虚偽報告と精度不良が発覚

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今回の事件の背景には、ゼネコンに横たわる構造問題がある。準大手ゼネコンの幹部は次のように語る。「大成建設に限らず、ゼネコンは現場のチェック体制があまくなっている。クオリティーが落ちている」。

ゼネコンはこれまで、品質をチェックするために少しずつ、少しずつ、時間をかけて慎重に工事を進めていた。いまは労働環境の改善を目的に工事現場でも週休2日制を求められ、しかも民間が発注する建築工事の納期はかなり厳しい。全般に余裕がなく、品質管理の部分がどうしても、かつてに比べておろそかになっているという。

大成の「風通しの悪さ」を指摘する声も

大成建設の社内における、「風通しの悪さ」を指摘する向きもある。

今回は、まず工事監理会社への自主検査書類の提出が遅れていた。工事課長代理が慌てて作成した報告書を課長に渡した。その課長が内容を十分に確認せずに、工事監理会社やNTT都市開発に提出してしまった。

こうした一連の動きの責任をとって役員2人が辞任するが、「(虚偽報告や精度不良について)支社長や建築本部長にとどめ、経営トップにあげていなかったということだろう。大成建設の内部では、個人の意見が言いにくい雰囲気があるのかもしれない」と、前出とは別の業界関係者は指摘する。

大成建設の相川善郎社長
建築畑の経験が長い大成建設の相川善郎社長。今回の不正施工を重く受け止めているという。写真は2022年8月取材時のもの(撮影:梅谷秀司)

今回の不正施工について、経営トップも重く受け止めているようだ。エンゲージメント(約束や契約)を大事にする大成建設の相川善郎社長は、支店長などの経営幹部に対して、品質管理プロセスの徹底を強く指示したという。

大成建設の広報担当者は「この問題が全国に広がることはない。本社・支店の品質管理検査やパトロールを(ほかの現場では)実行している」と話す。同社は今後の対策として、有識者を交えて再発防止策をとりまとめる方針だ。

今回の建て直しを受けて、工事損失は数百億円にのぼる可能性もある。大成建設は今2023年3月の通期純利益計画を670億円(前期比6.2%減)としているが、大幅減額となることは避けられないだろう。業績への影響だけでなく、顧客からの品質への信頼が損なわれることで、今後の受注に響いてくることも十分に考えられる。

社会のインフラ構築を担うゼネコンにとって、品質管理のプロセスは経営の根幹に関わるものだ。同じような事件が再発することはあってはならない。大成建設の経営姿勢が問われる。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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