只見線に雪月花、東急は四国「観光列車」新時代へ 他社線での営業運行が全国各地で動き出した

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鳥塚氏によれば、雪月花の2022年度の売上高は1億3100万円で利益は1340万円になりそうだという。この数字だけ見ると、雪月花の料金が高額なので利益が出ているように思えるが、鳥塚氏は「雪月花は利益を増やすことを目的とした列車ではない」という。

その理由を説明するために鳥塚氏が挙げた例が、同じくトキ鉄が昭和の国鉄形車両をほぼそのままの状態で走らせている「国鉄形観光急行」である。こちらの収支は売上高4300万円、利益1460万円。売り上げは雪月花の3分の1にすぎないが、雪月花を上回る利益を叩き出す。

「雪月花の利益を増やすのは簡単」と鳥塚氏は言う。手っ取り早く利益を増やしたければ料理の質を下げ、客室乗務員の人件費などのコストを減らせばよい。しかし、そうしない。顧客満足度が低下して客離れが起きるからだ。そのため、トキ鉄は高い料金に見合うだけのコストをかけて顧客満足度を高めることに腐心している。

えちごトキめき鉄道 鳥塚亮氏
えちごトキめき鉄道の鳥塚亮社長(写真:えちごトキめき鉄道)

雪月花の利用者のおよそ7割が県外からやって来る。彼らは宿泊や食事、ほかの観光などで新潟にお金を落とす存在だ。つまり、県や沿線自治体にとっても間接的な利益貢献は大きい。また、2022年4月から2023年2月までの雪月花のマスコミ報道実績はテレビ番組23本、雑誌24誌、新聞4紙、ウェブ4本。「広告宣伝費はゼロなのに、これだけの広告宣伝効果がある。雪月花を通じて新潟のPRにもつながっている」と鳥塚氏は胸を張る。

只見線復興の支援に

そんな雪月花が只見線を走る。只見線は福島県の会津若松と新潟県の小出を結ぶ全長135kmの路線だが、2011年7月の豪雨で甚大な被害を受け福島県内の会津川口―只見間が運休。一時は廃線も取り沙汰された。しかし、福島県が会津川口―只見間のインフラを保有し、JR東日本が運行を行うという上下分離方式での復旧が決定し、2022年10月に運行再開した。

熱心な鉄道ファンでもある鳥塚氏は、豪雨で運休となった只見線の動向を気にかけていた。そんな折、只見線と奥会津の写真を「年間300日」撮り続けている友人の写真家、星賢孝さんと話す機会があった。星さんは運行再開に向けた動きがなかなか進まない不満を鳥塚社長にぶつけたという。

鳥塚氏は星さんにこう答えた。「愚痴ばかり言わずに自分の立場でできることをやろうよ」。星さんは只見線の美しい風景をインターネットを通じて世界に発信し、海外の写真展などにも足を運び只見線のPRを行った。星さんの写真を通じて只見線が世界中から注目されるようになった。

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