「高学歴層が増える中国」が迎えうる"意外な未来" "現代最高の知性"が予言する「新しい全体主義」

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中国について考えるとき、中国が経済的に成功したせいで、中国は極めて同質的であると考えるかもしれません。また、中国は完璧な権威主義システム、または世界で最も権威主義的なシステムとも表現されるでしょう。しかし、中国の指導者たちはそう見ていません。

権威主義的な中国で人々が決起する?

彼らは中国が強い平等主義の価値観に基づいて、共産主義革命を起こしたことを覚えています。これらの平等主義的な価値観がまだそこにあることを知っています。

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中国の社会には公正を求める要素があります。中国の指導者たちは常に、人々の決起の可能性を考慮に入れておかなければなりません。

これは、中国を統治することが非常に厳しい理由の1つだと思います。それは内向きのもろさがあります。

もう1つ、付け加えておきましょう。中国はすでに、人口の中に相当数の高学歴層がいるということです。この状況は西洋のどこにおいても、伝統的イデオロギーの解体をもたらしました。多くの人は知らないでしょうが、私は高等教育を受けた人々が人口のうちの25%を占めたことが、ソ連で共産主義が崩壊した本当の理由だと考えています。

私は1988年のデータを持っています。当時のソ連の国勢調査によると、高等教育を受けた者の割合が25%に達していました。そして、1990年にシステムが崩壊したのです。

中国は、今のところまだこの水準(25%)には達していませんが、中国の将来について考えると、政治的バランスと民主主義の将来という観点から相反する2つの力があると思います。

一方には、中国の文化と革命の伝統として、平等主義の要素があります。もう一方で、高等教育を受けた人々が増えています。中産階級と呼ばれる層です。この階層の比率が、共産主義崩壊直前のソ連と同じ水準に達しようとしているのです。

エマニュエル・トッド 歴史家、文化人類学者、人口学者

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えまにゅえる・とっど / Emmanuel Todd

1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新聞出版)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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