「日経報道」で内部を牽制する台湾政治家のしたたか 台湾軍がはらむ問題の解決を図れるか
日本経済新聞で2023年2月28日に掲載された特集「台湾、知られざる素顔」が、台湾社会で大きな反響を呼んでいる。世論はとくに台湾軍幹部の「約9割」が退役後、中国に渡って軍の情報を提供し、見返りに金銭を授受、腐敗が常態化しているなどと報じた点に反応した。
3月1日になり、国軍退除役官兵輔導委員会(退役軍人協会に相当)の馮世寬主任委員(閣僚)が立法院(国会)外交・国防委員会への出席の前に、「胡說八道(でたらめ)」と公で使用する言葉としては非常に強い口調で報道陣に不満を表した。その後、台湾総統府が検証を呼びかける。3日には、謝長廷駐日代表が深い遺憾の意を表明する文章を日経に送付したことを明らかにした。
一方、日経は3月7日の朝刊で、特集記事は取材対象者の見解や意見を紹介したもので同社の意見ではない。しかしながら社会の混乱を招いたことは遺憾、公平性に配慮した報道に努めるとする「お知らせ」を掲載した。
これを受けて台湾外交部(外務省に相当)は同紙の「お知らせ」を前向きに捉え、日台関係がこれ以上悪化しないよう、幕引きを図ろうとした。一方、邱国正国防部長(国防相)は依然として納得いかない様子であり、記者らの前で、日経の記者が書いたものを同社が責任を取らないとするのはいかがなものかとコメントしている。
「さもありなん」という反応も
台湾軍内では、上官をプライベートでは何十年も「先輩」と呼び続けるなど、上下関係が退役後も続く文化がある。現在の国防部長も退役軍人の先輩がおり、先輩が侮辱されたのだから身を挺して守らなければならない。彼らにとって日経報道への反応はごく当たり前のことなのだろう。
台湾にとってアメリカに次ぐ重要な隣国で、親密度では他を圧倒する日本との関係を一日でも早く良好な形に戻したい外交部。それに対し、軍人としての名誉と国家への忠誠を踏みにじられた国防部との間でギャップが生じている。
しかし外国の、しかも友好国・日本のメディア報道で憤りを感じた人々がいた一方、さもありなんと感じた人々もいたのも事実だ。
米中対立が激化する中、台湾の戦略的地位がかつてないほど高まっている。にもかかわらず、アメリカはなぜ最新鋭とまでは行かなくとも日本や韓国と同等の武器を台湾に提供しないのか。
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