斬られてもすぐには倒れず、いったん静止した後、大きくのけ反って、受け身を取らずに頭から倒れる。無様であること、格好悪いことにこだわった死に様だった。
「主役と僕の顔が同時に映るには、どうしたらいいかなと思ったのが、あれなんです」
福本はまずカメラに背を向けたまま、主役がカメラに映ることを計算した位置に立つ。そして斬られる瞬間、相手に合わせた間合いを取る。刀が絶対に届かない距離なので、主役は思い切り刀を振り下ろすことができる。カメラでは本当に斬られているように見える。そして海老反り。主役の顔と斬られる福本の顔が同時に映る。そして、そのまま倒れる。まさに福本にしかできない職人芸である。
数秒しかない出番でも「誰かがきっと見ていてくれる」
「痛くないように倒れるというたら、もちろん痛くないように手をついてバタッと倒れられるんですけど……。痛みを感じて死なないと、見ている人も『あっ』と思ってくれないな、と」
「自分なりに、若いうちからずっとやってきて、人から、『あっ』と思ってもらえるためには一生懸命やるしかないと。日本国中で1人でもいい。『あいつ光ってるな』と思ってくれる人を1人つくろうと思ったんですよ」
たとえ数秒しかない出番でも、誰かがきっと見ていてくれる。気づいてくれる。そんな思いで、全力を傾けて演じ続けた。
「一生懸命に何も気にせず、その人の仕事を全うして夢中でやってるときが、やっぱりいちばん人間輝いてるときかなと」
やがて時代劇ファンの間で、福本の名前が次第に知られるようになる。斬られ役はエンドロールにクレジットされることはないが、全国各地から激励の手紙が届くようになり、ファンクラブまでつくられた。あるファンレターには「日本一の斬られ役」と記されていた。