5万回斬られた男「福本清三」名脇役を支えた信念 日本一の斬られ役、「ラストサムライ」にも出演

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それまで映画もまともに見たことがなかった福本だったが、スターたちと一緒に仕事をすることで俳優の仕事の面白さに目覚める。片岡千恵蔵、市川右太衛門のようなスターに憧れたこともあった。なかには大部屋俳優からチャンスを掴んで名脇役になった仲間もいた。しかし、初めて台詞のある役をもらったとき、福本は自分の限界に気づいたという。

「もう何回も何回もNG出しましてね。そのときもう、ほんまに『俺は役者に向かんな』とつくづく思いましたね。だから僕はスターにならんでええと。立ち回りのほうでスターになってやろうと」

俳優を辞めることも考えたが思いとどまり、「斬られ役」としての技に磨きをかけていった。あるときは篝火とともに倒れ込む、あるときは斬られた勢いで縁側から転落する。生傷だらけになりながらも、主役が格好よく見えるよう心がけ続けた。そんなとき、時代劇のスーパースター萬屋錦之介から声をかけられる。

「『お前、斬られ方上手いな』と言われて。『斬られ方が上手いというのは芝居ができるというこっちゃ』。『えー、僕、芝居はできまへんで』って言うて……。スターさんから、上手いな言われたの初めてでね。萬屋さんを尊敬していたので、そういう方に言われてズン! と来た。ああ、僕がやってたのは間違いじゃなかったなと。それで立ち回りにも自信が持てました」

参考にしたのは「チャップリン」

自分だけの「斬られ方」、自分だけの「死に様」を模索する日々が続いた。斬られ役を極めようと、意外な人物のアクションを参考にした。喜劇王チャールズ・チャップリン。受け身を取らず、四方どの方向にも倒れる派手なアクションに衝撃を受けた。

「チャップリンさんの映画を見てると、バーンと倒れるんですよね。そうすると、ドーッとお客さんが笑う。なんでただ倒れただけで、と思っていて。で、よくよく考えてみたら、すごい倒れ方してるんですよ。喜劇だよね、その倒れ方がすごいからお客さんがドッと沸くわけですね。見ている僕らも、ワッと感動して。

チャップリンさん、映画に命かけてやっていたと思うんですよ。こだわりっちゅうんですか、スタッフ一同、主役と一丸となって作品に命を吹き込んだ。喜劇の人でさえあれだけやってるんだから、僕らはそれ以上にやらなあかんと」

チャップリンの映画を何度も繰り返して見て、編み出した技の1つが「海老反り」である。

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