タイトルは『太秦ライムライト』。福本が演じるのは、自分自身をモデルにした年老いた大部屋俳優。時代劇の衰退と自らの老いに戸惑う斬られ役が、次の世代を担う、山本千尋演じる新人女優に夢を託し、映画の世界から静かに身を引くという物語だ。
福本が「海老反り」を編み出すために何度も繰り返し見た、尊敬してやまないチャップリンの晩年の傑作『ライムライト』にオマージュを捧げた作品である。
斬られ役一筋の福本は初めての主役に悪戦苦闘。50年の付き合いがある俳優・松方弘樹を挑発する台詞はなかなか出てこなかった。いかに芝居とはいえ、大部屋俳優がスター相手に暴言を吐くことができなかったからだ。何度もNGを出したが、やり抜いた。
ラストシーンで「海老反り」を披露
手取り足取り殺陣を教えたヒロインに斬られるラストシーンでは「海老反り」が披露された。
無様に、格好悪く見えるように考え抜いた「死に様」が、はかなくも美しくスクリーンに映し出された。使っている歴代のかつらは、いびつに変形している。さまざまな体勢で倒れるため、かつらがダメージを受けてきたのだ。
「それは痛いですよ。頭だって何回も打ってるんやもん。それは、自分が悪い……悪いっちゅうか、自分が勝手にやってるだけのことで。そんなん嫌だったらせんかったらいいねん。ケガして、お前アホやなと言われるのは、当然のことだとわかってるんです。自分でも」
ヒロインにかける台詞の中には、福本がかつて口にした「どこかで誰かが見ていてくれる」があった。福本の役者人生を体現する言葉だ。福本はこの映画で、カナダのファンタジア国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した。
「日本一の斬られ役」「5万回斬られた男」──福本清三。多くのスターたちを輝かせ続け、最後に自らひときわ大きな光を放った。77 年の生涯だった。
●福本清三の至言
(本文敬称略)
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