5万回斬られた男「福本清三」名脇役を支えた信念 日本一の斬られ役、「ラストサムライ」にも出演

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タイトルは『太秦ライムライト』。福本が演じるのは、自分自身をモデルにした年老いた大部屋俳優。時代劇の衰退と自らの老いに戸惑う斬られ役が、次の世代を担う、山本千尋演じる新人女優に夢を託し、映画の世界から静かに身を引くという物語だ。

福本が「海老反り」を編み出すために何度も繰り返し見た、尊敬してやまないチャップリンの晩年の傑作『ライムライト』にオマージュを捧げた作品である。

斬られ役一筋の福本は初めての主役に悪戦苦闘。50年の付き合いがある俳優・松方弘樹を挑発する台詞はなかなか出てこなかった。いかに芝居とはいえ、大部屋俳優がスター相手に暴言を吐くことができなかったからだ。何度もNGを出したが、やり抜いた。

ラストシーンで「海老反り」を披露

手取り足取り殺陣を教えたヒロインに斬られるラストシーンでは「海老反り」が披露された。

『道をひらく言葉 昭和・平成を生き抜いた22人』(NHK出版新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

無様に、格好悪く見えるように考え抜いた「死に様」が、はかなくも美しくスクリーンに映し出された。使っている歴代のかつらは、いびつに変形している。さまざまな体勢で倒れるため、かつらがダメージを受けてきたのだ。

「それは痛いですよ。頭だって何回も打ってるんやもん。それは、自分が悪い……悪いっちゅうか、自分が勝手にやってるだけのことで。そんなん嫌だったらせんかったらいいねん。ケガして、お前アホやなと言われるのは、当然のことだとわかってるんです。自分でも」

ヒロインにかける台詞の中には、福本がかつて口にした「どこかで誰かが見ていてくれる」があった。福本の役者人生を体現する言葉だ。福本はこの映画で、カナダのファンタジア国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した。

「日本一の斬られ役」「5万回斬られた男」──福本清三。多くのスターたちを輝かせ続け、最後に自らひときわ大きな光を放った。77 年の生涯だった。

●福本清三の至言

「絶対見てくれていることがわかっている。だからこそ、やらないかんということを、僕は何かのときに感じた。そんなことあり得ないんだけど、『ああ、あり得へんな』で終わったらいかんな、と自分で思ったんです。だから、誰かが見てくれるようにそこで頑張らないかんと」

(本文敬称略)

NHK「あの人に会いたい」制作班

「NHK映像ファイル あの人に会いたい」は、2004年4月に放送を開始したテレビ番組。NHKに残る膨大な映像・音声資料の中から歴史に残る著名な人々の珠玉の言葉を今によみがえらせ、保存・公開する「映像ファイル」を目指している。これまで670人を超える人物を取り上げてきた(2022年12月時点)。

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