1980年代後半から1990年代前半にかけて、日産自動車が「パイクカー」というキャッチコピーとともに、レトロデザインのコンパクトカーを次々に送り出して話題になったことは、多くのクルマ好きが知っていることだろう。
いずれも初代「マーチ」のプラットフォームやパワートレインをベースとしたもので、「ミニ」をモダナイズしたような2ボックス2ドアの「Be-1」、上下2分割のリアゲートを持っていた「パオ」、キャンバストップを備えた2+2クーペの「フィガロ」が相次いで送り出された。商用車の「エスカルゴ」もあった。
Be-1は台数限定だったのであっという間に完売となり、購入者がプレミア価格で中古車市場に出すなど、社会現象にもなった。よってパオとエスカルゴは受注期間限定に変更。フィガロは2万台を何回かに分けて抽選で販売する方式に変えた。
パイクカーの中でも、作りがもっとも凝っていたフィガロの価格は200万円弱で、当時の国産コンパクトカーとしては高価だったものの、同じエンジンを積むマーチ・ターボの2倍以内に収まっていた。
日産のパイクカーが販売されていたのは、バブル経済がピークだったころだ。バブルが弾けるとフィガロは販売を終了し、パイクカーの歴史も幕を閉じた。でも個人的にはもう1台、流れを汲む車種があると思っている。
1993年の東京モーターショーで参考出展され、翌年12月に発売された「ラシーン」だ。
レトロタッチなクロスオーバー
車名はかつて航海で使っていた羅針盤からの造語。ベースがマーチのひとクラス上の「サニー」に代わったことで、ボディサイズは全長3980mm×全幅1695mm×全高1450mmとそれまでのパイクカーよりやや大きく、リアドアを持つ5ドアとして実用性を高めていたが、レトロタッチのデザインであることは共通する。
車体の架装が高田工業で行われていたことも、パイクカーと同じだ。高田工業はイタリアのカロッツェリアのような会社で、日産の系列会社というわけではなく、いすゞ自動車「ミュー」、スバル「ヴィヴィオT-Top」なども手がけていた。
写真で見ておわかりのとおり、ラシーンはクロスオーバースタイルをいち早く取り入れてきた。そのスタイリングは、当時日本で人気のSUVだったジープ「チェロキー」XJ型の影響を受けたのかもしれない。チェロキーもまた、「ラングラー」と比べるとクロスオーバー的だったが、ラシーンはそれよりももっとカジュアルだった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら