ついに登場「山形新幹線E8系」完成までの全舞台裏 E6系ベースで開発、半導体不足で完成遅れる

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定員は352人。E3系の394人と比べると42人少ない。フロントノーズが3m長くなり先頭車両の定員が減ったほか、車いすスペースや荷物スペースを設置し、トイレ数をE3系と同様にしたなどの理由だ。もちろんE6系の定員330人と比べれば、フロントノーズが4m短い分、定員は22人多い。

車内は全席に電源コンセントが設置された。設置場所が肘掛けの下というのがユニークだ。これも白石氏が苦心した点の1つで、足元のコンセントは場所によって差しにくかったり、足が引っかかったりする。肘掛けの先端にコンセントを設置するとリクライニングのボタン操作の邪魔になったりする。試行錯誤の末、肘掛けの下に落ち着いた。

JR東日本 白石仁史氏
E8系について説明するJR東日本鉄道事業本部モビリティ・サービス部門車両技術センターのユニットリーダー、白石仁史氏。「新在直通は山形で生まれ、山形で育った技術。乗った瞬間から“これに乗って山形に行くんだ”と思っていただけるとうれしい」と話す(撮影:尾形文繁)

半導体不足で遅れた完成

この日報道公開された車両にはシンボルマークなどの意匠は施されていなかった。「カラーリングだけで山形新幹線だとわかるのでステッカーを貼る計画はない」と白石氏は断言した。

一方で、現在の山形新幹線は「つばさ」という名称で運行しており、E8系の車体や車内の行き先表示にも「つばさ」と明記されていたものの、E6系が当初「スーパーこまち」という名称で運行していたことを引き合いに、「E8系もスーパーつばさとして運転するのか」という質問に対しては、「詳細については決まっていない」と話すにとどまった。

時速300km運転が可能になったことで、E8系による東京―新庄間の所要時間はE3系よりも確実に短縮する。その所要時間次第では、現行の「つばさ」ではなく、「スーパーつばさ」として運行する可能性は排除できないということだろうか。

もともとの計画では早ければ2022年9月に最初の車両を完成させ、2024年春の営業運転開始までふた冬かけて試運転を行う予定だったが、半導体不足が災いし完成が今年2月にずれ込んだ。ただ、早速2月末から試運転を行うとしており、目標のふた冬かけた試運転はなんとか実現できそう。

今後試運転を通じて、E8系の雄姿を多くの人が目にするはずだ。試運転でどんな知見が得られ、それがどのように営業運転に生かされるか、所要時間はどのくらい短縮するのか。今後1年間の動きに目が離せない。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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