中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている

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そんな中で、共産党のエリート青年組織「中国共産主義青年団(共青団)」の機関紙「中国青年報」は2月17日、中国の大学で学ぶ学生が、ChatGPTを使って期末試験でクラス1位の成績を取った事例をレポートした。

記事によると大学2年生の男子学生は、昨年末に実施された期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。

オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという。

中国青年報によると、「学校の課題にChatGPTを使う是非」について、SNSやインターネット掲示板で少なくとも数十万の投稿が公開されている。学生が「宿題の神器」「最強の家庭教師」と歓迎する一方、「思考力や創造力を奪う」との批判も少なくない。

中国青年報は記事でChatGPTを使って高得点を取った学生を批判しておらず、「正しく質問を入れないと、適切な回答は得られない。AIを使いこなすにも知識や技量がいる」「人間とAIが協業してより価値の高い成果を出せる」といった大学教授の声を多く紹介している。同メディアが共産党の機関紙であることを考えると、政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える。

締め付けに転じる可能性も

とはいえ、対話型AIの活用についてはまだ始まったばかりで、前述したように中国では使えない建前にもかかわらず、すでに大学の期末試験で使う学生が現れ、フェイクニュースが世の中を騒がせている。政府や企業の前のめりな期待をよそに、政府にとって想定外の事象が次々に生み出されるのは想像にかたくない。

習近平国家主席が率いる共産党政権は社会の秩序を乱す事象を何より嫌う。TwitterやFacebookなどのアメリカのSNSをブロックしたり、巨大なコストをかけてSNSを監視するのも、情報統制に絶対的な価値を置いているからだ。対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう。

検索ポータルで中国首位のバイドゥ(百度)は3月に自社開発した対話型AIを発表する計画だが、中国政府のプレッシャーを背負う「中国版ChatGPT」は、どんな姿になるのだろうか。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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