中国の労働市場が抱える長期的な構造問題は悪化しつつある。世界製造業生産の約3割を占める中国で、出稼ぎ労働者が生産現場に戻りたくないと考えているのだ。コロナ禍前、人口高齢化で労働力はすでに縮小。若者は安い賃金で、労働集約的な産業で働きたがらなくなりつつある。
中国の輸出経済を支える出稼ぎ労働者2億9600万人のうち、どの程度の人々が生産現場に復帰していないかについてのデータはない。だが、従業員や管理職へのインタビューは、軌道に戻るのに一部のセクターが直面する困難を浮き彫りにする。雇用主は働き手を確保するために昇給や何らかの奨励策を提示せざるを得なくなっている。
出稼ぎ組
中国共産党の習近平総書記(国家主席)が進めてきたゼロコロナ政策で最大級の打撃を受けたのがこうした出稼ぎ組だ。
テスラやアップルなど世界的ブランドに製品を供給する工場などもロックダウンの対象となった。工場の稼働停止で何カ月も無給で過ごし、外部との接触を基本的に遮断する「バブル」方式で現場以外の誰とも連絡を取ることができず、家族に会えない厳しい状況に見舞われた労働者もいる。
多くの出稼ぎ労働者が故郷で仕事をしようと決意
ジョーンズ・ラング・ラサールの大中華圏担当チーフエコノミスト、龐溟氏は「ロックダウン中に不確実さを経験したことで多くの出稼ぎ労働者が、故郷で仕事をしようと決意を固めた」と指摘。「地方のインフラ整備が進んだことや当局の支援策」も地元での職探し増加に寄与していると述べた。
オンライン求人サイトの智聯招聘が実施した調査によれば、春節で帰省した労働者の4割近くが故郷での仕事を希望しており、そのうちの約15%がすでに職に就いている。
中国製造業、春節の大移動後に働き手は戻るのか-混乱も想定
広東省仏山市は出稼ぎ労働者を募るため1月下旬に貴州省に代表団を派遣。チャーター便や鉄道で働き手を連れてくる企業もある。北京市や上海市、浙江省、福建省は企業に生産再開を促すため補助金を支給している。
家族との時間
仕事の探し手は家族との時間を犠牲にしてより多く稼ごうとすることにあまり熱心ではなくなっていると、「張」という名字の男性がフルネームを明かさないことを条件に取材に応じ語った。
彼は信頼できる上司と不確実性の少ない職場環境であまり労働集約的でない仕事を望んでおり、月給は以前の職場より少ない7000元(約13万7000円)程度から8000元でいいと考えている。