関西で相次ぐ鉄道運行本数の削減方針、日立化成の被災で消耗品調達至難に【震災関連速報】
福島で起きた原子力発電所事故が、500~600キロメートル以上も離れた関西の鉄道運行に打撃を与えている。一見すると因果関係が薄いように見える二つの事象が、産業界におけるサプライチェーンの分断という東日本大震災の二次的被害によって結び付いた。
JR西日本と近畿日本鉄道(近鉄)が相次ぎ、列車の運行本数の削減や車両編成の縮小などを発表したが、原因はいずれも鉄道車両のモーターに使う消耗部品の調達に支障が出たためだ。日立化成工業グループの浪江日立化成工業(福島県双葉郡浪江町)が生産する「直流電動機ブラシ」と呼ぶ部品の生産が止まっている影響を受けた。浪江日立化成は、東京電力の福島第一発電所における放射能漏れ事故による避難指示地域に立地。現在は誰も立ち入ることができない状況だ。
直流電動機ブラシは直流モーターを回転させるために電気を流す役割を担う。回転部に接触するためどんどん摩耗していく。一定の使用期間を過ぎれば交換しなければならない消耗部品である。
最新の電車はブラシレスモーターを使った車両が多いが、一昔前の旧型電車は直流モーターを使っているため、ブラシが欠かせない。JR西日本や近鉄は旧型電車の比率が高いうえ、日立化成グループからの調達依存度も大きいことから、このままブラシの調達難が続けば、現在の運行本数を維持できなくなるというワケだ。
直流電動機ブラシは日立化成グループが国内で約5割のシェアを保有しているもよう。競合は東海カーボンや帝国カーボン工業程度と少ない。
日立化成グループは山崎事業所・桜川地区(茨城県日立市鮎川町)で、直流電動機ブラシの素材となるカーボンブラックを生産、浪江日立化成が最終加工を担当している。山崎事業所も震災の影響により23日時点で操業が止まっているが、設備やインフラ、物流の復旧とともに順次、操業再開はできるだろう。だが、浪江日立化成は復旧の見通しがまったく立たない。原発事故に伴う放射能漏れの問題がどう収束していくかは、いつ避難指示が解かれるかの情勢がまるで不透明だからだ。
このため、日立化成は直流電動ブラシを競合他社に生産委託することも検討しているようだ。鉄道各社から、東海カーボンや帝国カーボンへの要請も強まるとみられる。
ただ、問題が収束すれば日立化成グループの生産も復活できるため、競合が生産委託に応じたとしても休日稼働など現状設備を生かしたフル生産で対応するのが現実的で、自社の設備を増強してまで対応するのは難しいだろう。直流電動機ブラシは需給が逼迫した状況が続く可能性が高い。
国内5割のシェアを握る日立化成グループから供給を受けている鉄道各社はJR西日本、近鉄だけではなく多かれ少なかれ、電車の運行に悪影響が及ぶ懸念もある。ただ、ディーゼルエンジンで走行する地方のローカル路線への影響は皆無とみられる。
(武政 秀明 =東洋経済オンライン)
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