日銀正副総裁人事、期待された女性登用はならず 世界標準から見ると女性登用がいつまでも進まず

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政府は14日、日本銀行の正副総裁の後任人事案を提示したが、焦点の一つとなっていた女性登用は実現しなかった。ダイバーシティー(多様性)の推進で主要先進国に後れを取る日本。岸田文雄政権が掲げる「個性と多様性を尊重する社会」の実現に向けた道のりは遠い。

  政府の人事案によると、黒田東彦総裁(78)の後任に元審議委員で経済学者の植田和男氏(71)、副総裁には内田真一日銀理事(60)と氷見野良三前金融庁長官(62)を起用する。

次期日銀総裁に植田氏、市場との対話で問われる手腕-政府が提示 

米欧の中央銀行では既に女性のトップが誕生し多様化が進む中、約140年の歴史を持つ日銀で初めてとなる正副総裁への女性登用に期待が高まっていた。ブルームバーグが先月実施したエコノミスト調査では、副総裁のトップ候補に日銀出身の翁百合日本総合研究所理事長が浮上していた。

日本銀行本店Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

JPモルガン証券の藤田亜矢子チーフエコノミストは正副総裁人事について、世界から見た時に女性登用が「いつまでも進まないというふうには映っていると思う」と指摘。「どういう形でダイバーシティーを進めていくのかということに対して、積極的に政策がとられているとは思われていないだろう」と述べた。

米国ではイエレン財務長官が連邦準備制度理事会(FRB)副議長を経て2014年2月から4年間、女性として初めてFRB議長を務めた。昨年5月には、ブレイナード理事が副議長に昇格。欧州中央銀行(ECB)では、19年11月にフランス財務相や国際通貨基金(IMF)専務理事を歴任したラガルド氏が、女性初の総裁の座に就いた。

政策委に女性1人

大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、異次元緩和をどう修正していくかという大イベントを成し遂げなければならない中で、女性登用は「ハードルが高かったのではないか」と指摘。副総裁に女性を突然登用するのではなく、「まずは審議委員の中に女性を増やすことによって、経験者を副総裁に登用していくという形の方が定着しやすい」との見方を示した。

金融政策の運営方針などを決める日銀の最高意思決定機関である政策委員会は、正副総裁を含む9人で構成されるが、現時点で女性は中川順子審議委員だけだ。 

翁氏は先月、財界や学界の有志からなる「令和国民会議(令和臨調)」(共同代表・佐々木毅元東京大学総長ら)のメンバーとして、政府・日銀の共同声明を見直し、2%の物価安定目標を長期的な目標として盛り込む提言をした。

政府・日銀は新たな共同声明を、2%を長期的目標に-令和臨調 

ブルームバーグ調査では、女性では翁氏のほか、日銀の清水季子理事の名前も副総裁候補として挙がっていた。一方、黒田総裁の後任に女性を見込む回答はなかった。

世界経済フォーラム(WEF)が公表した2022年のジェンダーギャップ指数で日本は146カ国中116位と、下位に甘んじている。政府は指導的地位に女性が占める割合を2020年代の可能な限り早期に30%程度とする目標を掲げているが、女性登用の現状は政府目標には程遠い。

日銀のデータによると、管理職に占める女性の割合は22年3月末時点で15.7%。内閣府のまとめでは、企業の管理的職業従事者に占める女性の割合は21年に13.2%だった。 

元日銀審議委員でSBI金融経済研究所の政井貴子理事長は先月30日のインタビューで、日銀正副総裁ポストのいずれかに女性が指名されれば、企業や組織に女性活用を促す「大きなメッセージになる」と期待を寄せていた。 

--取材協力:、.

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著者:氏兼敬子、横山恵利香

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