「ほとんど仕事がない」50代部下なし管理職の苦悩 "大企業のぬるま湯"と"前進への葛藤"

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会社員を辞め、フリーランスとして独立したミドル世代もいる。50歳の川田香織さん(仮名)は、2022年夏にウェブマーケターとして独立した。

川田さんは大学卒業後、広告業界を中心に複数の外資系企業に勤めた。インターネット広告が普及する中、2013年ごろからウェブマーケティングに携われる職場を選び、スキルを身に付けていった。

独立する直前に勤務した外資系メーカーでは、部長職に就いたこともある。が、これまでBtoB事業の経験がない川田さんにとっては会社が扱う商材に慣れることに時間がかかり、「もっと消費者向けのマーケティングの仕事がしたい」と考えていた。

外資系企業の部長職を経て、地方企業のEC支援へ

そんな時、SNSで目にしたのがセカンドキャリアを支援する企業の広告だった。軽い気持ちでプログラムに応募し、北海道の花き農家のECを支援するインターンに参加した。

実は川田さんは大の観葉植物好きで、自宅ではたくさんの植物を育てている。川田さんがSEO(検索エンジンの最適化)対策をすると例年は売り上げが落ちる秋冬も伸び、翌年の春には前年比の2倍近くを売り上げた。「大好きな植物をどう売るか考えるのが楽しくて。働くってこういうことだなと思いました。自分のやってきたことが成果につながり、感謝してもらえることも嬉しかったです」(川田さん)。

新たな発見もあった。「私はウェブマーケターとして特別なキャリアを持っていたわけではないので、どこまで自分のスキルが必要とされるか不安はありました。でも、誰に何を提供するのかを明確にすることで、ニーズはあるとわかったんです」。

インターンシップをきっかけに川田さんは会社を退職し、ウェブマーケターとして独立した。会社員を続けたほうが安定していたが「これから10年先を考えた時に、自分が面白いと思う仕事に舵を切りたい」と決断した。

独立後、川田さんは上級ウェブ解析士の資格を取り、複数の地方企業へのEC支援をしている。「貯金を取り崩しながらの生活だし、夫の収入がなければ、これほど早く独立できなかったのは確かです。ただ、年齢を重ねると決断する勇気がなくなっていく気がするので、このタイミングで独立して良かった」と語ってくれた。

高橋さん、川田さんともに会社の外に踏み出すことで、思っていなかった自分の仕事のスキルを再発見できた。会社に残るにしても、転職や独立するにしても、外の世界とのつながりが、長く勤める会社で染みついた価値観をいい意味で壊してくれるのではないだろうか。

国分 瑠衣子 ライター

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こくぶん るいこ / Ruiko Kokubun

北海道新聞社、繊維専門紙の記者を経て2019年に独立。社会部、業界紙の経験から経済・法律系メディアで取材、執筆。趣味はおいしい日本酒を探すこと。Twitter:@8kokubun

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