「ほとんど仕事がない」50代部下なし管理職の苦悩 "大企業のぬるま湯"と"前進への葛藤"

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高橋さんは「会社の研究の優先順位が変わっていきました。企業研究者としてはよくあることです」と説明する。

「昔は潤沢な予算が組まれていたのでマイナーな研究でも続けることができた。でも予算が削られ、利益を生み出す道筋が明確でなければ研究ができなくなっていきました」。

高橋さんの研究チームは解散し、50代で品質保証部に異動する。バックオフィスである。「極めて不幸な異動というわけではなく、よくあることです」と高橋さんはたんたんと語る。だが、「努力する仲間と新たなものを生み出すことが好き」という高橋さんに品質保証の仕事は合わなかった。業務改善を提案しても受け入れられないなど、職場のどこか消極的な雰囲気にもなじめなかった。

「転職なんてありえない」という暗示

高橋さんは今、部下なし管理職として工場での監査業務に就いている。ある一日の様子を教えてもらった。

午前8時に出社してメール確認、午後の監査準備をして昼休み。午後に監査を行い、報告書を作成し午後5時には退社する。「おかしいでしょう。ほとんど仕事がないのに、研究者時代よりも高い給料をもらっているんですよ」(高橋さん)。

妻は「高給取り」と言われる職業で、高橋さんが転職して給料が減っても生活には困らない。ではなぜ会社に踏みとどまっているのか。「わからないけれど、マジックみたいなものだと思う。僕らの世代は、会社は辞めないでずっと働き続けるものだ、転職なんてありえないという暗示にかかっているような気がするんです」。

副業やリスキリング(学び直し)という言葉が定着して久しい。政府は副業を推進し、大手企業が次々と副業を解禁している。だが、会社から「頑張れば部長になれる」と刷り込まれ続けた自分と同世代のうち、いったいどのぐらいの人が副業に挑戦できているんだろう。そう高橋さんは感じている。

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